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2013年10月22日火曜日

携帯をのぞき見すること

 浮気などの証拠を見つけようとして、持ち主に断りもなく、携帯電話の記録を覗き見ることに、違法性はないのでしょうか。

信書開封罪(刑法133条)

他人の携帯電話に届いたメールを覗き見ることは、「通信の秘密」を侵す行為です。他人宛ての手紙を勝手に読もうとして、封筒の口を破る行為に近いです。だとすれば、信書開封罪(刑法133条)に該当しないのでしょうか。

信書開封罪の対象である「信書」とは、特定の人に意思を伝達する文書であり、郵便の封書が典型。携帯電話のメールは「信書」に含まれないので、処罰の対象外になります。

行動監視ツールをインストールした場合

行動監視ツールなどを夫の携帯電話やスマートフォンにこっそりインストールして利用するのは違法になります。 その行動監視結果を不用意に第三者に公表した場合には、名誉毀損が成立し、損害賠償や処罰の対象となることもあるでしょう。

行動監視ツールは、(1)本人の同意がなければ物理的にインストール不可能な仕様になっており、かつ、(2)現に本人の同意があるのでない限り、違法なスパイウエアの1種として扱われます。

そして、刑法上では、不正指令電磁的記録の作成罪、提供罪、供用罪、取得罪、保管罪(刑法168条の2、168条の3)として処罰されることがあります。

さらに、行動監視ツールがクラウド型のときは、サービスを提供しているプロバイダについて電気通信事業法違反(通信の秘密を侵害する罪)が成立することがあります。

例外として、一方の配偶者が認知症等の病気になり、他方の配偶者がその後見人になっている場合があります。後見人は本人の代わりに行動できますし、本人は正常に同意をすることができないので、このような場合には同意なしにインストール、利用することができます。


不正アクセス罪

携帯電話にセキュリティ・ロックがされている場合はどうでしょうか。

持 ち主が設定したパスワードを入力しなければ携帯電話を使えないようにしていたのに、他人が持ち主の誕生日などを適当に入れたことで、偶然にパスワードが通 り、保存されていたメールを勝手に読んだ場合は、不正アクセス罪(不正アクセス行為禁止法3条、8条)に該当しないのでしょうか。

 不 正アクセス罪とは、情報を管理するサーバーコンピュータに、不正入手した他人のIDやパスワードを使って侵入することにより、他人になりすますネット犯罪です。たとえば、自分のパソコンで他人のふりをして、ウェブメールのサイトにログインし、メールを盗み見るなどの行為が想定されます。たとえば、通信回線を通して密かにロックを解除し、監視ツールをインストールした場合には、不正アクセス罪が成立することがありえます。

一方、モバイルを直接操作した場合には、不正アクセス罪にはなりません。 他人が携帯電 話を使えないよう設定する場合のパスワードは、いわば携帯電話のスイッチ代わりに用いられるもので、そのパスワードを破ったからといって、不正アクセ ス罪が成立するわけではありません。


しかし、携帯電話は、個人情報の宝庫です。電話帳を見れば、仕事関係や交友関係が一目で判明します。

こうした個人情報を盗み取る行為を、犯罪として取り締まらないのは、なぜでしょうか。

それは、携帯電話のメールの覗き見が実際に問題になるとしても、浮気がバレるなどのプライベートな場面が大半だからでしょう。何か大きな社会的問題でも生じない限り、法規制の動きは起こらないと考えられます。



損害賠償請求

携帯電話に保存された情報を勝手に覗かれたことで、プライバシーが侵害され、精神的な苦痛を受けたとして、民事上の慰謝料を請求する余地があります。

夫婦であっても、お互いに独立した個人ですし、相手は自分の所有物ではありません。互いに家庭外の生活や秘密事項があって当然ですし、携帯電話の行動履歴や通信履歴は個人のプライバシーの一部です。

 したがって、妻が夫の同意なしに携帯メールをチェックした場合、プライバシー侵害として損害賠償の原因となることがあります。これはケースにもよりますが、夫婦であろうが他人同士であろうが原則的には同じです。

ただ、慰謝料が認められるとしても、せいぜい数万円から10万円程度でしょう。

それでは、他人の携帯電話を覗くとして、どの段階からプライバシーの侵害が発生すると考えられるのでしょうか。

メールの内容まで読まなくても、いつ、誰からメールが届いたのか(誰にメールを出したのか)のリストを覗いただけで、その人のプライバシーを侵害することになり、慰謝料の支払いを求められる可能性があります。通信の秘密の保障は、通信の内容だけでなく、通信そのものの「存在」にまで及ぶためです。


不倫が発覚したら訴訟証拠として使えるか

一般に、行動監視が警察などによって令状なしに実行された場合、その監視結果としてのデータは違法収集証拠として刑事手続き上の証拠能力が認められない場合があります。

これに対し、民事の訴訟では、原則として、どのような証拠でも証拠能力が肯定されます。

そのため、もし不倫などが発覚して離婚訴訟になった場合、離婚訴訟は民事の訴訟ですので、同意なしに収集された行動監視結果のデータも「不貞行為」を証明するための証拠として用いることができます。

この問題について過去の裁判の中で直接に判断を示したものはありません。しかし、一般に、興信所によって作成された調査報告書、こっそり録音した録音テープなどは、離婚訴訟等において証拠として認められてきました。おそらく、電子的なツールによる行動監視結果データも同じ扱いになるものと思われます。

 ただし、違法な証拠を用いて民事訴訟で勝訴しても、罪が消えるわけではないので、起訴されれば有罪となり服役することになります。 これは、調査依頼を受けた興信所や探偵社なども同様です。

例えば、不正アクセスにより証拠を入手したような場合には不正アクセス罪として別途処罰されることになります。他人の家に勝手に入り込んで持ち出した書類等も民事訴訟では証拠になりますが、その場合にも勝訴しても住居侵入罪で服役しなければならないのです。