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2014年8月14日木曜日

京都地裁判決

京都地裁判決の要旨(2014年8月7日)

 原告 X

 被告 ヤフー株式会社

 主文

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 事実及び理由

第1 請求

 1 被告は、原告に対し、1100万円及びこれに対する平成25年5月1日(不法行為の日の後の日)から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え

 2  被告は、被告の運営するインターネット上のウェブサイト「Yahoo! JAPAN」において、原告が逮捕された旨の事実を表示してはならない。

 3 被害は、被害の運営するインターネット上のウェブサイト「Yahoo! JAPAN」において、原告が逮捕された旨の事実が記載されているウェブサイトヘのリンクを表示してはならない。

第2 事案の概要

 本件は、原告が、インターネット上で検索サービス等を提供するウェブサイト「Yahoo! JAPAN」(以下「本件サイト」という)を運営する被告に対し、本件サイトで原告の氏名を検索語として検索を行うと、原告の逮捕に関する事実が表示されるところ、これにより原告の名誉毀損(きそん)及びプライバシー侵害が行われているとして、不法行為に基づき、損害賠償金1100万円及びこれに対する年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、人格権に基づき、本件サイトにおける、原告が逮捕された旨の事実の表示及び同事実が記載されているウェブサイトヘのリンク)の表示の各差し止めを求める事案である。

 1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)

 (1)当事者等

 ア 原告

 原告は、40代の男性であり、平成24年11月にサンダルに仕掛けた小型カメラで女性を盗撮したとして、同年12月に京都府迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕され、その後、同条例違反につき平成25年4月に執行猶予付きの有罪判決を受けた。

 イ 被告

 被告は、情報処理サービス業及び情報提供サービス業等を目的とする株式会社であり、本件サイトを運営している。

 (2)本件サイト及び検索サービスの概要

 ア 本件サイトにおいては、利用者が単語等を入力すると、それに関連する検索結果が表示されるというインターネット上での検索サービスが提供されている。

 上記検索結果は、(1)検索ワードをその記載内容に含むウェブサイトヘのリンク、(2)スニペットと呼ばれる、リンク先サイトの記載内容の一部が自動的かつ機械的に抜粋されたもの、(3)リンク先サイトのURLのセットが羅列された一覧形式で表示される。

 イ 本件検索サービスにおいては、所定のプログラムに従ってウェブサイトを検索するというロボット型全文検索エンジンが採用されており、自動的かつ機械的にインターネット上の無数のウェブサイトの情報が収集され、利用者が本件サイトで検索ワードを入力すると、上記収集情報の中から抽出された検索ワードに関連する検索結果が表示されるという形でサービスが提供されている。

 (3)原告に関する検索結果

 本件検索サービスを利用し、検索ワードとして原告の氏名を入力すると、その検索結果として、原告の氏名が記載されたウェブサイトヘのリンクとスニペット、当該サイトのURLとがセットになったものが複数表示される。その中には、本件逮捕事実が記載されたウェブサイトへのリンク、スニペット及びURLが複数含まれており、スニペットのみで本件逮捕事実を認識し得るものも複数存在する。

 2 争点及び争点に関する当事者の主張

 (1)本件検索結果の表示は原告の名誉を毀損するものとして、被告に不法行為が成立するか(争点1)

(原告の主張)

 本件検索結果の表示は、原告の社会的評価を低下させるものとしてその名誉を毀損するものであり、原告が無名の一私人であること、本件逮捕事実に係る犯罪が軽微なものであること、原告が同事実により既に執行猶予判決を受けていることなどからすると、違法性が阻却されることもない。その具体的理由は以下のアないしウのとおりである。

 ア 本件検索結果の表示による事実の摘示

 本件検索サービスによる検索結果は、(1)被告が、ニュースまとめサイト等のサーバーに保存されている情報を被告のサーバーに複写・保存する、(2)本件検索サービスの利用者が本件サイトで検索ワードを入力すると、被告は、捜索ワードにふさわしい情報を被告のサーバーに保存された情報の中から検索して、該当情報の一部を利用者のパソコンに送信する(その送信された情報が利用者のパソコンに表示される)という過程を経て表示されているところ、上記(1)、(2)は被告の行為そのものである。リンクについては、利用者が該当惰報の内容の全部を認識するにはクリックという行為が介在することになるが、かかる形式論でリンクの表示につき被告の行為性が否定されるものではない。

 したがって、被告がリンク及びスニペットを表示する行為は、単にリンク先サイトの存在及び所在を示すものではなく、事実の摘示そのものであるといえる。

 そして、本件検索結果の表示のうちスニペット部分には正に本件逮捕事実が摘示されているし、リンク部分もクリック一つでリンク先サイトに記載されている本件逮捕事実が目に触れられるようにしていることからすると、社会通念上、本件逮捕事実を摘示したものと評価できる。

 被告は、本件検索結果の表示は被告の意思が何ら介在しないから、表現行為に該当しない主張するが、本件検索結果の表示は被告が採用している検索エンジンによって行われているのであるから、被告の意思に基づくものであるといえる。そもそも、名誉毀損が成立するには、単に特定人の社会的評価を低下させる「事実の摘示」で足りるのであり、「意思内容の反映」、「表現」である必要はない。

 イ リンク先サイトの存在について

 リンク先サイトの存在によって、被告の行為が免責されることはない。リンク先サイトにおいて本件逮捕事実に関する情報が表示された時点では名誉毀損が成立しなかったとしても、これとは別の時点で、別の方法で本件逮捕事実を表示する行為については、独自に当該表示行為そのものについても名誉毀損の成否が検討されるべきである。

 ウ 違法性阻却について

 同種被害の防止の観点から犯行に対する注意を喚起する社会的必要性が高いとしても、軽微な犯罪について、執行猶予判決の言い渡し時以降においてまで犯人の実名を公衆に認知させる必要はないから、原告の実名を含む本件逮捕事実は公共の利害に関する事実とはいえない。

 また、本件検索結果の表示に係る被告の行為は、自動的かつ機械的になされているというのであるから、一片の公益目的も認められない。

 したがって、違法性阻却は認められない。

(被告の主張)

 ア 本件検索結果の表示は、本件逮捕事実の記載があるウェブサイトの存在及びURLを示すものにすぎず、本件逮捕事実を摘示しているわけではないから、名誉毀損の要件としての事実の摘示を欠いている。本件検索サービスは、単なる情報へのアクセス手段としての機能を有するにすぎないものであり、被告の意思内容の反映とはいえない。したがって、表現行為とはいえない検索結果の表示によって名誉毀損が成立する余地はない。本件逮捕事実が記載されているリンク先サイト(新聞記事等)につき名誉毀損が成立しないのに、本件検索サービス等の上記記事へのアクセス手段が違法となるというのは、常識にも反する。

 本件検索結果の表示のうちスニペット部分についても、自動的かつ機械的にリンク先サイトの情報を−部抜粋して表示しているにすぎないことに照らすと、被告が表現行為として自らの意思内容を表示したものとはいえないから、事実の摘示には当たらず、名誉毀損となるものではない。

 イ 仮に、本件検索結果の表示が「本件逮捕事実の記載があるウェブサイトの存在及びURL」という事実の摘示(表現行為)に当たると解されたとしても、本件逮捕事実の記載があるウェブサイトがインターネット上に存在するという事実は、真実である。また、現代の人々の生活にとってインターネットからの情報収集が不可欠であり、検索サービスがそのための必須のツールになっていることに照らせば、上記ウェブサイトを含め、あるウェブサイトの存在という事実には公共性があり、かつ、そのような情報を提示する行為に公益目的が認められることは明らかである。

 したがって、本件検索結果の表示については違法性が阻却される。

 ウ インターネット上には無数の言論が存在するところ、あらゆる言論に自由にアクセスできることは表現の自由の根本的要請である。本件検索サービスによる特定の検索結果につき名誉毀損が成立するとなると、被告は、当該検索結果において表示されたリンク先サイトへのアクセス制限を強制されることになるが、これは表現の自由の根幹を揺るがすものといわざるを得ない。

 (2)本件検索結果の表示は原告のプライバシーを侵害するものとして、被告に不法行為が成立するか(争点2)

(原告の主張)

 本件検索結果の表示は原告のプライバシーを侵害する。その理由については、争点1の主張のとおりである。

(被告の主張)

 原告の主張は争う。

 本件逮捕事実については、その発生からまだわずかな期間しか経過しておらず、みだりに公開されない利益としてのプライバシーの保護の対象となるものではない。また、被告は、本件検索結果の表示により、単に本件逮捕事実の記載があるウェブサイトの存在及び所在(URL)を示しているにすぎず、本件逮捕事実を公表しているものではないから、プライバシー侵害は生じ得ない。

 仮に、プライバシー侵害の問題が生じ得るとしても、上記ウェブサイトの存在及びURLという情報には公共性があり、かつ、そのような情報を提示する検索結果の表示という行為の目的及び方法に相当性が認められることは明らかであるから、違法性はない。

 (3)損害及び因果関係(争点3)

(原告の主張)

 ア 原告は、本件逮捕事実により勤務先を懲戒解雇となった後、平成25年4月に執行猶予判決を受け、心機一転して再就職のための活動をしようと考えていた。ところが、本件サイトで原告の氏名を検索すると、検索結果として、原告が逮捕された旨の記事が多数表示されたことから、企業等の採用担当者がインターネットで原告の氏名を検索すると本件逮捕事実を知ることになり、原告を採用することはないであろうと、将来を絶望するに至った。潜在顧客が原告の氏名を検索することを考えると、個人事業を営む道も絶たれたといえる。これらに限らず、原告が名乗った相手がインターネットで原告の氏名を検索することで、本件逮捕事実を知られるのではないかとの不安から、原告は通常の社会生活を送ることができない状態である。

 以上のことからすると、被告の名誉毀損行為及びプライバシー侵害行為によって原告が被った精神的損害は、1000万円を下回ることはない。また、弁護士費用としては100万円が相当である。

 イ 一般公衆は、インターネット上に多数存在する本件逮捕事実に関するウェブサイトの存在も所在も知らないのであり、被告の本件検索サービスによって初めて、本件逮捕事実に関するウェブサイトを目にし、そのため、原告に多大な精神的損害が生じるのであるから、被告の行為と原告の精神的損害との間の因果関係は明白である。

 また、被告以外の他社の検索サービスがあるからといって、上記因果関係が否定されるものではない。

(被告の主張)

 原告が主張する損害については立証がなされていない。

 また、仮に本件検索結果の表示がされなかったとしても、本件逮捕事実が記載されているリンク先サイトはこれが削除されるまで存在し続け、誰でも閲覧できる状態にあるし、被告以外の他社の検索サービスも存在するのであるから、本件検索結果の表示と原告が主張する損害との間には相当因果関係が認められない。

(4)本件差止請求の可否(争点4)

(原告の主張)

 平成26年5月に、欧州連合司法裁判所において、検索サービス最大手の会社に対し、他人に知られたくない情報が掲載されているサイトへのリンクを削除することを命じる判決が言い渡された。

 本件においても、憲法上の幸福追求横に由来する個人の名誉、プライバシー保護の観点から、本件差し止め請求が認められるべきである。

(被告の主張)

 争う。

当裁判所の判断

 1 争点1(本件検索結果の表示は原告の名誉を毀損するものとして、被告に不法行為が成立するか)について

 (1)本件検索結果の表示による事実の摘示

 ア 前提事実のとおり、本件検索サービスの仕組みは、被告が構築したものであるから、これによる検索結果の表示は、被告の意思に基づくものというべきであるが、本件検索サービスの目的(リンク先サイトの存在及びURLを利用者に知らせること)や、表示される検索結果が基本的には、被告が左右することのできない複数の条件(利用者が入力する検索ワードの内容、リンク先サイトの存在及びその記載内容等)の組み合わせによって自動的かつ機械的に定まること等にかんがみれば、被告が検索結果の表示によって本件検索サービスの利用者に摘示する事実とは、リンク先サイトの存在及びURL並びにその記載内容の一部(スニペットとして表示される、当該サイトの記載内容のうち検索ワードを含む部分)という事実に止まるものと認めるのが相当であり、本件検索サービスの一般的な利用者の通常の認識にも合致するといえる。

 前提事実のとおり、本件検索結果の表示は、原告の氏名を検索ワードとして本件検索サービスにより検索を行った結果の一部であり、ロボット型全文検索エンジンによって自動的かつ機械的に抽出された、原告の氏名の記載のある複数のウェブサイトヘのリンク、スニペット(本件逮捕事実が記載されたもの)及びURLであるから、これによって被告が摘示する事実は、「原告の氏名が記載されているウェブサイトとして、上記の複数のリンク先サイトが存在していること」及び「その所在(URL)」並びに「上記の複数のウエブサイト中の原告の氏名を含む部分の記載内容」という事実であると認めるのが相当であり、本件検索サービスの一般的な利用者の通常の認識にも合致するといえる。

 イ 原告は、本件検索結果の表示は正に本件逮捕事実の摘示である旨主張する。

 しかし、上記判示のとおり、本件検索結果の表示のうちリンク部分は、リンク先サイトの存在を示すものにすぎず、本件検索サービスの利用者がリンク部分をクリックすることでリンク先サイトを開くことができるからといって、被告自身がリンク先サイトに記載されている本件逮捕事実を摘示したものとみることはできない。また、スニペット部分に本件逮捕事実を認識できる記載があるとしても、スニペット部分は、利用者の検索の便宜を図るため、リンク先サイトの記載内容のうち検索ワードを含む部分を自動的かつ機械的に抜粋して表示するものであることからすれば、被告がスニペット部分の表示によって当該部分に認識されている事実自体の摘示を行っていると認めるのは相当ではなく、本件検索サービスのー股的な利用者の通常の認識とも合致しないというべきである。本件逮捕事実も、検索ワード(原告の氏名)を含んでいたことから検索ワードに付随して、無数のウェブサイトの情報の中から抽出され、スニペット部分に表示されたにすぎないのであるから、被告がスニペット部分の表示によって本件逮捕事実を自ら摘示したとみることはできないというべきである。

 ウ 以上のとおり、被告が本件検索結果の表示によって摘示する事実は、検索ワードである原告の氏名が含まれている複数のウェブサイトの存在及びURL並びに当該サイトの記載内容の一部という事実であって、被告がスニペット部分の表示に含まれている本件逮捕事実自体を摘示しているとはいえないから、これにより被告が原告の名誉を毀損したとの原告の主張は、採用することができない。

 エ したがって、被告が本件検索結果の表示によって原告の名誉を毀損したとはいえないから、被告に原告に対する不法行為が成立するとはいえない。

 もっとも、上記判示のとおり、本件検索結果の表示のうちスニペット部分には本件逮捕事実を認識できる記載が含まれていることから、被告が本件検索結果の表示によって本件逮捕事実を自ら摘示したと解する余地がないではない。

 また、被告が本件検索結果の表示をもってした事実の摘示(検索ワードである原告の氏名を含む本件逮捕事実が記載されている複数のウェブサイトの存在及びURL並びに当該サイトの記載内容の一部という事実の摘示)は、本件逮捕事実自体の摘示のように原告の社会的評価の低下に直結するとはいえないものの、そのような記載内容のウェブサイトが存在するということ自体が原告の社会的評価に悪影響を及ぼすという意味合いにおいて、原告の社会的評価を低下させる可能性があり得る。

 そこで、後記(2)においては、仮に、被告に本件検索結果の表示による原告への名誉毀損が成立すると解する場合、その違法性が阻却されるかどうかにつき検討する。

 (2)違法性阻却の可否

 ア 民事上の不法行為たる名誉毀損については、(1)その行為が公共の利害に関する事実に係り、(2)専ら公益を図る目的に出た場合には、(3)摘示された事実が真実であることが証明されたときは、上記行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決)。

 イ 以下、本件検索結果の表示による事実の摘示につき上記ア(1)ないし(3)が認められるかどうかにつき、検討する。

 (ア)(1)について

 本件逮捕事実は、原告が、サンダルに仕掛けた小型カメラで女性を盗撮したという特殊な行為態様の犯罪事実に係るものであり、社会的な関心が高い事柄であるといえること、原告の逮捕からいまだ1年半程度しか経過していないことに照らせば、本件逮捕事実の適示はもちろんのこと、本件逮捕事実が記載されているリンク先サイトの存在及びURL並びに当該サイトの記載内容の一部という事実の摘示についても、公共の利害に関する事実に係る行為であると認められる。

 (イ)(2)について

 前提事実によれば、本件検索結果の表示は、本件検索サービスの利用者が検索ワードとして原告の氏名を入力することにより、自動的かつ機械的に表示されるものであると認められるから、その表示自体には被告の目的というものを観念し難い。

 しかしながら、被告が本件検索サービスを提供する目的には、一般公衆が、本件逮捕事実のような公共の利害に関する事実の情報にアクセスしやすくするという目的が含まれていると認められるから、公益を図る目的が含まれているといえる。本件検索結果の表示は、このような公益を図る目的を含む本件検索サービスの提供の結果であるから、公益を図る目的によるものといえる。

 (ウ)(3)について

 前提事実のとおり、本件逮捕事実は真実である。また、本件検素結果の表示は、本件検索サービスにおいて採用されたロボット型全文検索エンジンが、自動的かつ機械的に収集したインターネット上のウェブサイトの情報に基づき表示されたものであることに照らせぽ、本件逮捕事実が記載されているリンク先サイトの存在及びURL並びにその記載内容の一部は事実であると認められる(なお、リンク先サイトが削除されていたとしても、同サイトが存在していたことについての真実性は認められる)。

 したがって、仮に、被告が本件検索結果の表示をもって本件逮捕事実を摘示していると認められるとしても、または、被告が本件検索結果の表示をもって、本件逮捕事実が記載されているリンク先サイトの存在及びURL並びにその記載内容の一部という事実を摘示したことによって、原告の社会的評価が低下すると認められるとしても、その名誉毀損については、違法性が阻却され、不法行為は成立しないというべきである。

 2 争点2(本件検索結果の表示は原告のプライバシーを侵害するものとして、被告に不法行為が成立するか)について

 (1)被告が本件検索結果の表示によって原告のプライバシーを侵害したかどうかは、本件検索結果の表示によって被告が適示した事実が何であったかにより異なりうるが、仮に本件検索結果の表示による被告の事実の摘示によって原告のプライバシーが侵害されたとしても、(1)摘示されている事実が社会の正当な関心事であり、(2)その摘示内容・摘示方法が不当なものでない場合には、違法性が阻却されると解するのが相当である。

 (2)これを本件についてみるに、争点1における違法性阻却につき判示したのと同様の理由により、本件逮捕事実の摘示はもとより、本件逮捕事実が記載されているリンク先サイトの存在及びURL並びにその記載内容の一部という事実の摘示も、社会の正当な関心事ということができ((1))、その摘示内容・摘示方法も、本件検索サービスによる検索の結果として、リンク先サイトの存在及びURL並びにその記載内容の一部を表示しているにすぎない以上、その摘示内容、摘示方法が不当なものともいえない((2))。

 (3)したがって、本件検索結果の表示による上記事実の摘示に係る原告のプライバシー侵害については、違法性が阻却され、不法行為は成立しない。

 3 争点3(損害及び因果関係)及び争点4(本件差し止め請求の可否)

 本件検索結果の表示による被告の原告に対する名誉毀損及びプライバシーの侵害については、成立しないか、または、その違法性が阻却されるというべきであるから、争点3については判断の必要がない。

 また、上記1及び2で判示したところに照らせば、本件検索結果の表示によって原告の人格権が違法に侵害されているとも認められないから、争点4に係る原告の本件差し止め請求については理由がない。

 4 結論

 よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

2014年8月7日木曜日

ベネッセコーポレーションの顧客情報漏洩事件

<ベネッセコーポレーションの顧客情報漏洩事件>

 企業が集積する個人情報が容易に流出する事件がまた起きました。
  ベネッセホールディングスの延べ1億件の顧客情報が漏洩したとみられる事件。

 逮捕された被疑者M(39)は、顧客情報データベースの保守管理の再委託先のシステムエンジニア(SE)でした。Mは、業務上与えられたデータベースへのアクセス権を使って不正に顧客データをコピーしていたのです。

 データベースの端末が置かれていた部屋は出入りをカメラで常時監視するなど、部外者の入場を厳しく制限していました。データベース端末に指定外の記憶媒体などを接続すると、エラーになる仕組みも取り入れられていたそうです。

 しかし、データの持ち出しに使用されたスマートフォンは最新型で、この仕組みを免れることができました。これを知ったMが、管理体制の隙を突いたようです。

<問題の背景>

 電子データ化された大量の顧客情報の保守管理を外注する企業は増えています。これに伴い、委託先の従業員が営業秘密に該当する大量の情報を不正に持ち出す事例は後を絶ちません。
  多くの企業は、顧客などに関する大量の情報を電子データ化し、管理を外注しています。再発防止策の確立は緊急課題です。

 従業員のモラルに頼るのはもう限界。重要情報へのアクセス管理の徹底などが強く求められています。

 委託先と守秘義務契約を結んでも、委託先の個々の社員にまで徹底させるのは難しいようです。データベースの保守管理を請け負うIT企業では、委託先や再委託先など様々な立場の人が出入りする現場では末端の不正まで見抜けないのです。

 漏洩した顧客情報が流通する背景には、2005年の個人情報保護法の完全施行で住民基本台帳から個人情報を入手しづらくなったことがあります。

 漏洩したベネッセの顧客情報は、2006年以降のデータが多いそうです。不正に入手した個人情報の売買は禁じられており、名簿業者らが不正取得の可能性を疑う余地はありました。しかし、「知らなかった」と言えば不正の認識の裏付けは難しく、いったん外部に出た情報の流通は規制が困難です。

<対策>
 
 今後は、委託先も含めて社員個人と守秘義務契約を結び、違反すれば損害賠償などのペナルティーがあることを認識させることが必要となるでしょう。