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2013年10月30日水曜日

ネット上で会社の内部情報を漏えいしたら

今回は、社内の人間しか知らない内部情報をインターネットの掲示板に匿名で書き込んだところ、会社の上層部がそれをたまたま見つけて大騒ぎになったという場合について考えてみたいと思います。

アクセスプロバイダへの発信者情報開示要求

会社の犯人捜しは、まずアクセスプロバイダへの発信者情報開示要求から始まります。しかし書き込みの内容が殺人予告など犯罪性のあるものでない限り、プロバイダがすぐ開示に応じることは考えにくいです。なぜならインターネット上のやりとりは通信の秘密として法律上保護されているものです。これを簡単に漏らしてしまうプロバイダなど、誰も使わなくなってしまうでしょう。

そこでプロバイダは自らの信用問題として、「開示してほしければ裁判を起こしてください。開示せよという判決が出たら従います」と突っぱねることになります。書き込まれた側はわざわざ裁判を起こすのは面倒臭いと考え、たいていの場合は泣き寝入りとなります。

ただし、書き込みの内容が人に危害を加える予告であったり、信用毀損や風説の流布など株価に影響を及ぼすようなものであれば、プロバイダによっては開示に応じる可能性もあります。


会社のパソコンを使って書き込みをした場合

もし会社のパソコンを使って書き込みをした場合は、会社のサーバーを調べれば、誰のしわざかほぼ判明します。ただし、社員のプライバシーに関わることなので、会社も調査に踏み切るのは慎重になるでしょう。

会社が社員のメールやアクセスログなどを調べることに入社時の誓約書で同意していたり、就業規則に書いてあれば、いくらプライバシーの侵害を叫んでも無駄です。

発覚した場合の責任
 この場合、発生するのは民事責任、刑事責任・行政法上の責任、労働契約上の処分の3つです。

民事責任で考えられるのは「この書き込みのせいで業績が落ちたから損害賠償しろ」というものです。これは新製品についてウソの情報を流したために売り上げが激減した、というような場合はともかく、会社への不満を言った程度ではそれほど大きな金額を請求されることはないでしょう。

刑事責任や行政法上の責任では、信用毀損罪で告発されるとか、風説を流布して株価に影響を与えたとして、証券取引等監視委員会に呼び出され、課徴金を科されることなどが考えられます。

しかし会社員にとって一番怖いのは、3つめの労働契約関係の処分、すなわち減給、けん責、あるいは解雇です。とりわけ解雇されると再就職にも差し支えます。

労働者は労働法によって保護されており、よほどの理由がなければ解雇は難しいです。とはいえ、ここまで開き直るには精神力が必要です。

居酒屋でグチをこぼすのとネットに会社の悪口を書くのは、法的にまったく重みが違うということを意識しましょう

2013年10月28日月曜日

スマホがウイルスに感染し、社内資料が流出したら

スマートフォンが急速に普及しています。この便利な端末を利用して、通勤中や外出先、はたまた自宅でやり残した仕事をしている人も多いでしょう。

しかし、会社から端末を支給されているケースはもちろんのこと、私用の携帯電話から会社の重要書類や個人情報が流出した場合に、不法行為(民法709条)を理由として損害賠償を請求される可能性があります。

今のところ携帯電話やスマートフォンの紛失やウイルス感染による大きな情報漏洩事故は起こっていません。しかし、会社のPCを紛失したり、不正アクセスによって個人情報が流出した事件は多数あります。PCであろうとスマートフォンであろうと、情報漏洩に対する法的な責任に差はありません。

損害賠償の規模は決してバカにできません。過去に情報漏洩を起こし、顧客との間で裁判になった事例もあります。

  • TBC事件(2007年)では会員のスリーサイズなどの個人情報が漏れ、顧客1名につき3万5000円の賠償金を支払うことが命じられています
  • Yahoo!BB事件(07年)では1名につき5500円の賠償金を支払うことが命じられています。 

賠償額は、漏洩した情報の価値によって決まります。TBC事件のように、秘匿性の高い情報ほど賠償額は高くなります。

これらの機密情報や個人情報流出事件では、被害者が企業に損害賠償請求するケースがほとんどで、ミスや不正を犯した企業の担当者を直接訴えるケースはこれまでにはありません。

しかし、今後は担当者個人に対し、被害者である顧客や企業が訴訟を起こす可能性がないとは言い切れません。 担当者個人が負う賠償の額は、情報流出が担当者の故意か過失かによって変わります。

個人情報の流出を理由に企業が担当者に賠償請求した場合に、企業側のセキュリティ対策上の落ち度と担当者の過失分のバランスを鑑みて、賠償額が決定されます(過失相殺)。 つまり企業が万全のセキュリティ対策を講じているにもかかわらず、故意に情報を流出させた場合、流出した情報の価値すべてを賠償しなければならない可能性があるのです。たとえば、1件5万円の価値がある個人情報を故意に1万名分流出させてしまった場合、合計5億円も賠償しなければならない、ということです。

もちろん、個人に対し損害賠償請求がなされなくても、会社の規定により譴責や減給、懲戒解雇の処分を受けることがあります。会社の機密情報を漏洩させることは、情報という価値のある無形の財産を会社から失わせたことになるので、会社のお金を使い込み横領するのに等しいのです。

現在、スマートフォンはさらに進化し、ファイル共有などのクラウドサービスを活用する人も増えています。企業は、こうした技術の進歩に対応するセキュリティ対策を講じたうえで、情報保護ガイドラインを刷新し社員に徹底させることが重要です。

社員も、自衛策を講じる必要があります。
  • スマートフォンには、最低限、パスワードなどのロックを設定する。
  • クラウドサービスを利用するときには、オンライン上の個々のファイルにパスワードを設定すれば、安全性はより高まります。
  • あやしいアプリケーションを決してダウンロードしない。
  • 社外秘のファイルをダウンロードして作業したら、作業後に必ず消去する。
こうしたちょっとした工夫でリスクを軽減できます。 スマートフォンは携帯電話ではなく、数億円の価値を持つ資料が記録された媒体であり、同時に、資料が保存された倉庫(クラウド)に入るための鍵だと認識を改めることが重要です。


2013年10月27日日曜日

フィッシング詐欺

高齢者を標的にした振り込め詐欺は、いまも深刻な社会問題です。しかし高齢者はインターネットをあまり使いませんから、インターネットバンキングの詐欺事件は、まだまだ始まったばかり。これからは被害が深刻化するおそれがあります。

2011年秋、三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行のインターネットバンキングで、不正送金による被害が発覚しました。

被害額は三菱東京UFJで計数百万円(6件)、三井住友で計約1000万円(6件)。ある被害者は、1つの口座から200万円を盗られていました。

インターネットバンキングの利用者の多くは、1日の送金限度額を100万円に設定しています。この被害者は、2日に分けて100万円ずつ抜き取られていたのです。

なぜ、不正送金ができたのでしょうか。

これはフィッシング詐欺の1種です。詐欺師らは利用者に銀行当局を装う偽メールを送りつけ、偽の銀行サイトへ誘導して個人情報を入力させるという手口で、IDやパスワードを入手したのです。

クレジットカードの不正利用にも注意が必要です。ネット上ではカード番号と有効期限さえ打ち込めば、かなり自由に買い物ができます。ですから、ネットでの利用には慎重になるべきです。怪しいと思ったら、カードは使わず着払いなどを選択するといいでしょう。また、カード会社は顧客の購買行動をモニターし不自然な動きがあれば当人に問い合わせるので、不正はすぐに発覚します。

2013年10月26日土曜日

子供が勝手にネット契約したら

子供が有料サイトを利用して、多額の請求を受けてしまったらどうなるのでしょうか。

有料サイトの利用

最近ではこんな事例があるようです。
  • ウイルスなどによる明らかに違法な誘導
  • ツイッターを利用して有料サイトへ誘いこもうとする業者
  • 宣伝を装って郵便でDVDを送りつけ、受け取った人がPCに挿入すると、知らないうちに有料サイトの会員にされてしまった。
有料サイトの会費トラブルは月数千円、年会費1万円といった少額の場合が多いようですが、勧誘のしかたによっては違法性を問うことができます。

違法性がなくても、有料サイトを使ったのが子供であれば、法に訴えて料金を返してもらうことが可能です。

民法第5条の規定により、未成年者が親の同意なく行った法律行為は原則として取り消すことが認められています。したがって、インターネット上の詐欺で子供をターゲットにするのは、詐欺の手口としてもあまり巧妙とはいえないと思います。

その他

有料サイトの利用以外にも、子供が親のクレジットカードを使用し、インターネット・ショッピングで買い物してしまったというようなケースが考えられます。

この場合も民法5条が適用され、カードを使用したのが未成年者だった場合、その取引は取り消すことができます。

「子供が勝手に買ったものなので返品したい」という要望があった場合、業者も返品に応じるのが普通です。法律で消費者の権利が認められているので、裁判ともなれば、取り消されることは業者側も理解しています。


2013年10月25日金曜日

「応訴」しないとどうなるか

今の日本では、騒音、水漏れなどささいなトラブルでも「訴えてやる!」と息巻く人が確実に増えています。

もし、そんな人に訴えられたらどうなるのでしょうか。

いくら「自分には何も非はない」と思っていても、訴えられたら必ず「応訴」しなくてはなりません。訴えられた人が裁判所からの呼び出しを無視していると、基本的に原告、つまり訴えた側の主張がすべて認められてしまうからです。

といっても、一般常識から考えて多すぎる額の損害賠償の請求などは、裁判所によって減額されることになりますが、常識の範囲内で最も不利な扱いを受けてしまうでしょう。

仮に賠償額が低くても、関係者が支払う代償はそれだけではありません。弁護士に書面作成や法廷での弁護を頼まなければならないし、何度も裁判所に呼び出されるという手間もバカにならないのです。


2013年10月24日木曜日

グローバル企業による租税回避

2013年6月に開催された主要国首脳会議(G8サミット)で対策に向けたルールづくりが合意されるなど、グローバル企業による租税回避が問題になっています。

租税回避は何らかの方法で税の負担を軽くする1つの類型です。

日本国憲法は84条で立法によらなければ課税はできないという、「租税法律主義」を定めています。
つまり、法律に基づいて課税が行われるということです。 もちろん、その法律に反する行為は「脱税」となります。

ただし納税者は、その負担をなるべく軽くしたいと考えるのが常で、法律に従いつつ条文が想定する常識の範囲内で税負担を軽くする行為を「節税」と呼びます。

そして、形式上法律には従っているものの、条文の想定する常識の範囲から外れた、いわゆる“グレーゾーン”の行為が租税回避です。

例えば、祖父が孫を養子にしたり、相続人を増やして基礎控除を多くするために養子縁組をしたりすることなどは、以前から議論の対象となってきました。これによって相続税などを低くしようとするのは、場合によっては課税の公平性を害するとも考えられてきたのです。

最近話題になっている租税回避は、税率の低い国に子会社をおき、そこに利益を集めて税負担を軽くするというものです。 たとえば、税率が高いA国にある本社が、税率の低いB国にある子会社に製品を原価に近い価格で販売します。次にB国の子会社は税率の高いC国の孫会社に利益を乗せた高い価格で製品を売ります。製品を安く売ったA国の本社、高く買ったC国の孫会社は利益が抑えられ、高い税率でも税負担が小さくなります。一方、B国の子会社は高い利益を挙げているものの、税率が低いので税負担は小さくなるというカラクリです。

各国にある個別の会社ごとに納税をするが、決算はグループ連結で行います。その結果、税負担を低く抑えたうえ、その分だけ最終利益に上積みした好決算を株主に示すことができて、企業にとっては“一石二鳥”となります。

ここでいうB国の役割を果たすのが、税金がゼロ、または税率が極端に低い「タックスヘイブン(租税回避地)」と呼ばれる国や地域です。英領のケイマン諸島やマン島、ガーンジー島の法人税はゼロないし非常に低税率として有名です。税率を決めるのはもちろん各国の自由です。産業がない国や地域では、企業誘致を図るために税率を抑えることがあります。

しかし、欧米では財政の悪化から増税や歳出削減などで国民の負担が増しており、租税回避を図る企業、それを容認している税制のシステムに対して批判が高まっています。多額の利益を挙げるグローバル企業が、軒並みタックスヘイブンを使って税負担を逃れていると報じられたことも大きな影響を与えています。

メスを入れるとすれば、1つひとつの事例をチェックしていくしかありません。前述の例では、A、B、Cの3つの国が、「親会社から子会社への販売価格は低すぎないか」「子会社から孫会社へ高く売りすぎでは」など、合同で調査する必要があります。移転価格の問題にも関連しうる話だ。とはいえ、調査をするにも数多くの壁に直面する可能性が高いです。

2013年10月23日水曜日

ストリートビューとプライバシー・肖像権

ネット検索でおなじみ、米グーグル社が作成したストリートビューのサービスが、2008年8月より国内の主要都市に関して始まりました。

ストリートビューとは、数メートルおきの地点ごとに、公道上から実際に撮影された360度のパノラマ画像を、地図などと組み合わせて自由に閲覧できるようにしたシステム。

たとえば、初めて足を運ぶ待ち合わせ場所の下見代わりには、便利です。思い出の場所が現在どうなっているか、クリックひとつで眺めにいくのも楽しいですね。

ただ、世の中の景色を手当たり次第に呑みこみ、全世界の人々に共有させてしまうストリートビューは、「すごい」「面白い」と同時に「マズい」「怖い」ともいえます。公開されている画像は、駅前などの公共の場だけではないからです。ストリートビューのカメラは、住宅街の細い路地にも入り込んで、そこに見えるものすべてを記録、データ化してしまいます。

自宅がいつの間にかネットで公開されていて気持ち悪いという声が噴出しているのも当然の成り行きでしょう。 また、通行人が道ばたで転倒している瞬間などのストリートビュー画像を収集して面白がるような輩もいます。画像に写りこんだ通行人の顔には、ボカシが入るよう編集されていますが、不完全です。運悪くそのまま公開されている気の毒な人も少なくありません。

ストリートビューの法的な問題点は主に2つあります。

プライバシー

まず、自宅の様子が公開されるという「プライバシー」の問題。人格権と直結する大切な概念ですが、公道から見える建物の外壁や、庭を囲む柵などの撮影については、プライバシーを持ち出しづらいのが現状です。室内の様子が写りこまない限り合法といえます。

ただ、自宅の外観も、他の情報と組み合わせて個人が特定できるなら「個人情報」であり、個人情報保護法に反すると指摘する余地はあります。

肖像権

一方で、顔を撮影するという「肖像権」の問題。人の容貌も、原則として本人の許可なく記録することはできません。その了解を得なければ、被害者が慰謝料を請求する理由としても十分です。ストリートビューのプロジェクトには、肖像権と対峙できるほどの重要な社会的意義(報道・言論の自由など)が託されているとも思えません。まして、窓際で着替えている様子や、ラブホテルから出てくる男女を、その容貌が判別できるかたちで公開するなどは、プライバシー侵害とも結びつき、ストリートビューの不法行為性の疑いはより色濃くなります。


2013年10月22日火曜日

携帯をのぞき見すること

 浮気などの証拠を見つけようとして、持ち主に断りもなく、携帯電話の記録を覗き見ることに、違法性はないのでしょうか。

信書開封罪(刑法133条)

他人の携帯電話に届いたメールを覗き見ることは、「通信の秘密」を侵す行為です。他人宛ての手紙を勝手に読もうとして、封筒の口を破る行為に近いです。だとすれば、信書開封罪(刑法133条)に該当しないのでしょうか。

信書開封罪の対象である「信書」とは、特定の人に意思を伝達する文書であり、郵便の封書が典型。携帯電話のメールは「信書」に含まれないので、処罰の対象外になります。

行動監視ツールをインストールした場合

行動監視ツールなどを夫の携帯電話やスマートフォンにこっそりインストールして利用するのは違法になります。 その行動監視結果を不用意に第三者に公表した場合には、名誉毀損が成立し、損害賠償や処罰の対象となることもあるでしょう。

行動監視ツールは、(1)本人の同意がなければ物理的にインストール不可能な仕様になっており、かつ、(2)現に本人の同意があるのでない限り、違法なスパイウエアの1種として扱われます。

そして、刑法上では、不正指令電磁的記録の作成罪、提供罪、供用罪、取得罪、保管罪(刑法168条の2、168条の3)として処罰されることがあります。

さらに、行動監視ツールがクラウド型のときは、サービスを提供しているプロバイダについて電気通信事業法違反(通信の秘密を侵害する罪)が成立することがあります。

例外として、一方の配偶者が認知症等の病気になり、他方の配偶者がその後見人になっている場合があります。後見人は本人の代わりに行動できますし、本人は正常に同意をすることができないので、このような場合には同意なしにインストール、利用することができます。


不正アクセス罪

携帯電話にセキュリティ・ロックがされている場合はどうでしょうか。

持 ち主が設定したパスワードを入力しなければ携帯電話を使えないようにしていたのに、他人が持ち主の誕生日などを適当に入れたことで、偶然にパスワードが通 り、保存されていたメールを勝手に読んだ場合は、不正アクセス罪(不正アクセス行為禁止法3条、8条)に該当しないのでしょうか。

 不 正アクセス罪とは、情報を管理するサーバーコンピュータに、不正入手した他人のIDやパスワードを使って侵入することにより、他人になりすますネット犯罪です。たとえば、自分のパソコンで他人のふりをして、ウェブメールのサイトにログインし、メールを盗み見るなどの行為が想定されます。たとえば、通信回線を通して密かにロックを解除し、監視ツールをインストールした場合には、不正アクセス罪が成立することがありえます。

一方、モバイルを直接操作した場合には、不正アクセス罪にはなりません。 他人が携帯電 話を使えないよう設定する場合のパスワードは、いわば携帯電話のスイッチ代わりに用いられるもので、そのパスワードを破ったからといって、不正アクセ ス罪が成立するわけではありません。


しかし、携帯電話は、個人情報の宝庫です。電話帳を見れば、仕事関係や交友関係が一目で判明します。

こうした個人情報を盗み取る行為を、犯罪として取り締まらないのは、なぜでしょうか。

それは、携帯電話のメールの覗き見が実際に問題になるとしても、浮気がバレるなどのプライベートな場面が大半だからでしょう。何か大きな社会的問題でも生じない限り、法規制の動きは起こらないと考えられます。



損害賠償請求

携帯電話に保存された情報を勝手に覗かれたことで、プライバシーが侵害され、精神的な苦痛を受けたとして、民事上の慰謝料を請求する余地があります。

夫婦であっても、お互いに独立した個人ですし、相手は自分の所有物ではありません。互いに家庭外の生活や秘密事項があって当然ですし、携帯電話の行動履歴や通信履歴は個人のプライバシーの一部です。

 したがって、妻が夫の同意なしに携帯メールをチェックした場合、プライバシー侵害として損害賠償の原因となることがあります。これはケースにもよりますが、夫婦であろうが他人同士であろうが原則的には同じです。

ただ、慰謝料が認められるとしても、せいぜい数万円から10万円程度でしょう。

それでは、他人の携帯電話を覗くとして、どの段階からプライバシーの侵害が発生すると考えられるのでしょうか。

メールの内容まで読まなくても、いつ、誰からメールが届いたのか(誰にメールを出したのか)のリストを覗いただけで、その人のプライバシーを侵害することになり、慰謝料の支払いを求められる可能性があります。通信の秘密の保障は、通信の内容だけでなく、通信そのものの「存在」にまで及ぶためです。


不倫が発覚したら訴訟証拠として使えるか

一般に、行動監視が警察などによって令状なしに実行された場合、その監視結果としてのデータは違法収集証拠として刑事手続き上の証拠能力が認められない場合があります。

これに対し、民事の訴訟では、原則として、どのような証拠でも証拠能力が肯定されます。

そのため、もし不倫などが発覚して離婚訴訟になった場合、離婚訴訟は民事の訴訟ですので、同意なしに収集された行動監視結果のデータも「不貞行為」を証明するための証拠として用いることができます。

この問題について過去の裁判の中で直接に判断を示したものはありません。しかし、一般に、興信所によって作成された調査報告書、こっそり録音した録音テープなどは、離婚訴訟等において証拠として認められてきました。おそらく、電子的なツールによる行動監視結果データも同じ扱いになるものと思われます。

 ただし、違法な証拠を用いて民事訴訟で勝訴しても、罪が消えるわけではないので、起訴されれば有罪となり服役することになります。 これは、調査依頼を受けた興信所や探偵社なども同様です。

例えば、不正アクセスにより証拠を入手したような場合には不正アクセス罪として別途処罰されることになります。他人の家に勝手に入り込んで持ち出した書類等も民事訴訟では証拠になりますが、その場合にも勝訴しても住居侵入罪で服役しなければならないのです。

2013年10月21日月曜日

ネットコンテンツビジネスと著作権

ブログで本を紹介する場合、その表紙画像を載せる行為は、著作権の侵害になるのでしょうか。

法理論的には、著作権者に無断でネット上に作品を載せる行為は、複製権や公衆送信権の侵害に当たります。損害賠償責任が生じたり、刑事事件として立件されたりする可能性もあります。

「引用」だから著作権侵害にならないという人もいるかもしれません。著作権法では、批評などの目的で他人の著作物の一部を引用することが条件付きで認められています。ただ、ブログの批評対象は本の内容であって、表紙ではないから「引用」でないとも捉えられます。

これは、白黒の判別が難しいグレーゾーンです。つまり、法に触れる可能性があるということです。

では、自分の行為がグレーゾーンに該当する場合、すべきかどうかの判断はどうすればいいのでしょうか。
ポイントは2つあります。
① その行為で著作権者の収入機会を奪っていないか。
② 著作権者の感情を極端に害していないか。

著作権者の収入機会を奪う行為、批評を超えて、著作権者や作品の尊厳を傷つける行為は「黒」に近くなります。

著作権者との係争を抱えつつ、全文検索などのビジネスを進めるGoogleやamazonなどの米国企業に対し、コンテンツビジネスではほとんど存在感を示せない日本企業。この差は、グレーゾーンにあえて踏み込むしたたかさを持てるかどうかの違いが一因なのかもしれません。

2013年10月20日日曜日

撮影禁止の建物を合法的にブログ掲載する方法

撮影禁止・制限がされている建造物を撮影し、それをブログに掲載したり出版したりした場合、どのような法律的な問題が生じるのでしょうか。

著作権

建造物に著作権が認められるのは例外的。また、仮に著作権が認められても、著作権法46条の規定により、写真撮影して出版物などに掲載しても著作権侵害とはなりません。

「パブリシティ権」の問題

神社仏閣などを撮影し、広告に使うケースを考えてみましょう。神社仏閣の写真が顧客の目にとまり、業者に儲けをもたらす可能性があります。そこで、そのような顧客吸引力を保護するために「パブリシティ権」という概念があります。

しかし、現時点での最高裁判所の判断は、芸能人やスポーツ選手など、人間のみに認めるというものです。神社仏閣のパブリシティ権は法律上保護されていません。

『敷地』管理権の侵害

撮影禁止ルールを破って写真を撮る行為は、神社仏閣の『敷地』管理権の侵害として、問題が処理され得ます。写真撮影を制限する対応は、その神社や寺院などが持つ敷地の管理権(「所有物の使用、収益」)を根拠に許されるわけです。

民法206条は、一般論として「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と定めています。

地主が自分の土地を使ってトクをしようとする行為は、原則として他の誰にも差し止められません。これは「私的所有権絶対の原則」と呼ばれ、国家にも干渉されない神聖な権利だとされています。

宗教団体が利益を追求しない存在であったとしても、あるいはその建造物が文化や歴史と結びついた公共財であったとしても、敷地を所有していれば、その所有権は絶対であり、敷地内でルールに反して撮影すれば、不法行為として、損害賠償を求められる可能性があります。

ただ、撮影禁止の施設であっても、公道からの撮影であれば、プライバシー侵害など別の問題が生じない限り、法律上許されます。撮影料を請求されても支払うかどうかは自由です。

なお、敷地内から撮影する場合、不法行為の成否は、敷地管理者が看板などを立てて、撮影禁止のルールを明示しているかどうかが分かれ目になります。

 撮影禁止の看板が設置されていなかったため、敷地内での撮影が不法行為にならないとされた判例があります。私有地に根を下ろすカエデの大木を、カメラマンが地主に断りなく撮影し、写真集にまとめて出版したケースに対してです。

このケースでは、「撮影には許可が必要」との看板が設置される以前に、カメラマンがカエデの大木を撮影し、土地所有者の許可を得ずに出版したことに対し、原告の土地所有者が所有権の損害だとして、出版差し止めと損害賠償を求めましたが、原告が敗訴しました。

撮影時に看板が設置されていれば、損害賠償が認められた可能性が高いでしょう。


2013年10月19日土曜日

インターネット上の名誉毀損

 1. ネット上に事実無根の自分の悪評が書かれた場合

インターネット上の誹謗中傷は依然として続いています。決して他人事ではありません。

このところ、有名人のブログや掲示板に誹謗中傷や脅 迫的な書き込みを行って検挙されるケースが見られます。根も葉もないウワサを真に受けた人たちが集団的に攻撃的な書き込みを行い、いわゆる「炎上」に至ら せるケースも多くなっています。

従来は「2ちゃんねる」のような悪口サイトが中心でしたが、最近は、就職や結婚などのクチコミサイトやツイッターなどにも書き込まれることがあります。そのなかには過激で悪質なものも含まれており、被害者は思わぬダメージを受けてしまいます。

こうした名誉毀損や脅迫行為は、民事的には不法行為(民法709条)、刑事的には名誉毀損罪(刑法230条)や脅迫罪(刑法222条)に該当する可能性があります。

被害を受けたときの対応としては、民事的には、ブログや掲示板の管理者やホスティング業者に対して記事の削除を求めるとともに、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求によって発信者を特定して、損害賠償などの請求を行うという方法が考えられます。

 この場合、掲示板管理者などの下にはIPログ情報しかないのが通常ですから、その開示を受けたうえで、WHOIS検索(IPログの接続情報を調べるサービ ス)によって判明するISP(インターネットサービスプロバイダ)事業者に対して、第二段階の開示請求を行うことになります。

ISP事業者の下には、問題の投稿の日時に当該IPアドレスを付与した契約者に関する情報があるので、これによって投稿者を特定することができます。その 際、ISP事業者がIPログ情報を保存する期間は、短いところでは2カ月程度しか保存されないとも言われていますので、迅速に対処する必要があるでしょ う。

情報の流通による権利侵害が明白と事業者側が判断できない場合には裁判によることになりますが、第一段階の掲示板管理者などに対する場面では裁判所も開示の仮処分を認める傾向にありますので、短期間に最終のISP事業者の下までたどり着けることが多いと言えます。

削除請求を内容証明郵便で送付

被害に遭ったら、まずサイト管理者(コンテンツプロバイダ)に削除を求めましょう。その場合は、メールや問い合わせフォーマットを使っても構いませんが、被害個所を特定して「ここは不当なので削除せよ」と内容証明を送るのが無難です。これで大方は消してもらえ、解決に至ります。

やっかいなのは、削除を拒否された場合です。また、再び中傷を書き込まれたときに備えて、発信者が誰なのかを知っておきたいということもあるはずです。しかし、サイト管理者は表現の自由や個人情報保護を盾に「消さない」とか「情報は出せない」といってくることもあります。


プロバイダ責任制限法に基づいた仮処分申請

サイト管理者が、表現の自由や個人情報保護を根拠に、「消さない」とか「情報は出せない」といってくるときは、2002年に施行されたプロバイダ責任制限法に基づいた仮処分申請を行います。この法律は、被害者救済を重視しています。

リスクを避けたいと考えるサイト管理者は、違法情報であればおおむね削除しますし、持っているIPアドレスとタイムスタンプ(発信日時)を出してくることも多くなりました。

 この2つが入手できれば、サイトへの投稿を媒介する接続業者(アクセスプロバイダ)を特定し、発信者(契約者)を突き止める手がかりが得られたことになります。書き込みが消され、発信者につながる情報を得ることができれば、そこで矛を収めるという選択肢もありえます。

損害賠償請求訴訟

さらに、発信者に謝罪ないしは何らかの賠償をさせたい場合、IPアドレスからネット検索などで特定した接続業者に対して「発信者の氏名・住所の開示」を請求する訴訟を起こすことになります。

その際、訴える側に有利に働くのが、2010年4月8日に最高裁が出した判決です。これは、ネット上で名誉毀損などに当たる書き込みがなされた場合、接続業者に発信者情報を開示する義務があるとしたものです。実際に熾烈な争いになることはまずなく、数回程度の口頭弁論で終わることも多いです。 こうして、発信者本人が判明すれば、今度は発信者、すなわち加害者を名誉毀損で民事訴訟に持ち込めば好いでしょう。

ただし、示談になることもよくあります。「2度とやらない」という旨の念書を取り、慰謝料を受け取ります。

しかし、示談での慰謝料は高額を期待できないことも多く、判決になれば弁護士費用は損害額の1割程度しか認められません。裁判に1、2年近くかかることもあり、その間のコストを考えれば経済的合理性を欠くことになってしまいます。


悪質で被害が重い場合は警察に「被害届」を出す 

 「2ちゃんねる」などの一部の掲示板では、民事裁判手続きを事実上無視しているため、発信者情報を遡ることが困難になっています。

 被害が重い場合などは、刑事事件に発展する可能性も高くなりますので、警察への被害届提出や告訴を検討することになるでしょう。 この点、「2ちゃんねる」などでは民事裁判手続きが無視されるために、一般的に刑事手続きによらなければならない現状があり、刑事法の謙抑性に照らすと憂慮される状況となっています。

また、刑法に定める名誉毀損罪で告訴を試みても、警察や検察での立件が難しい面があります。

さらに、①内容に公共性がある、②目的に公共性がある、③内容が真実と証明できる、の3点を満たせば罪に問えません。特に③の真実についての論点が重要になりますが、ネット上の言論の真実性については事案に応じて裁判所の個別判断になります。

ま た、IPアドレスなどのアクセスログ(利用履歴)の保存期間は法律で定められていません。そのため、大手プロバイダでも3カ月~半年ぐらいしか保存しない ことが多いのです。しかも最近の傾向として、どんどん短くなってきています。削除だけでなく、発信者を探り出すには、早めに動き出すことが大切です。


2. クチコミサイトでお店の悪口を書かれたら

飲食店やホテルを選ぶときに役立つ口コミサイト。実際に足を運んだユーザーが書き込むリアルな評価が人気の秘密です。しかし一方で、悪口を書き込んで店とトラブルになることもあるようです。

真っ先に思い浮かぶのは民事における損害賠償請求ですね。また、名誉毀損は犯罪行為でもあります。3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金という刑事罰に処されるおそれがあるのです(刑法230条)。

たとえばラーメン店がカルト集団と一体であるかのような書き込みをした男性が名誉毀損罪に問われた裁判では、2010年3月、最高裁が被告側の上告を棄却。罰金30万円の有罪判決が確定しました。

どのような書き込みをしたら罪に問われるのでしょうか。

意見の表明なら、名誉毀損罪にあたりません。

名誉毀損罪は、事実の摘示が要件の一つ。たとえば『店にゴキブリがいた』という事実を書いてはじめて名誉毀損罪に問われる可能性が生じます。単に『おいしくない、汚い、接客が気に入らない』と感想を書くだけなら表現の自由です。

しかし、単に感想を述べるだけでは説得力に欠けてつまらないでしょうから、自分の意見を裏づけるために、客観的事実を書くケースもあるでしょう。

この場合は、事実が真実であるかどうかが分かれ目になります。ウソをついたら、名誉を傷つけたとして名誉毀損罪になりえます。

また、虚偽の情報でお店の経済的評価を貶めたり、営業に支障をきたせば、信用毀損罪・業務妨害罪に処されます(刑法233条)。信用毀損罪・業務妨害罪の法定刑は、名誉毀損罪と同じです。どちらにしてもウソはご法度です。

では、真実なら何を書いてもいいのでしょうか。

そうではありません。名誉毀損罪は、公共の利害にかかわる事実で、目的が公益を図ることだった場合、それが真実なら罰しないことになっています(刑法230条の2)。逆に言えば、内容に公共性がなかったり、目的に公益性がなければ、本当のことを書いても名誉毀損罪が成立します。

個人のプライバシーを暴くような書き込みは公共性がないためにアウトです。

ただし、通常のグルメ批評であれば、刑事事件として立件される可能性はほとんど考えられないでしょう。一般的に飲食店は公衆を相手に商売しているので、料理やサービスに関するレビューは利害公共性があると考えられます。また目的公益性に関しても、個人的な嫌がらせや復讐心であることを証明するのは現実的には難しい場合もあるでしょう。


 なお、民事での損害賠償も同じ枠組みです。店に損害が発生しても、内容が真実で公共性があり、目的に公益性があれば、賠償請求は認められません。

3. 犯罪にあたる書き込み
 
 ネット上の書き込みや投稿を巡っては民間団体「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」が、薬物広告や児童ポルノといった存在自体が違法の「違法情報」などを中心に民間からの通報を受理しています。 

2013年10月18日金曜日

ネット上の個人情報を消すには

ツイッターに顧客のプライベートを書き込んで炎上する事件が相次いでいます。

  • 2011年1月、都内ホテルのアルバイト店員がスポーツ選手と芸能人の来店情報を投稿して、ホテル側が謝罪しました。
  • 2011年5月、スポーツ用品メーカー社員が来店したスポーツ選手に対する中傷を書き込んで炎上しました。 

どちらの騒動でも、投稿者はネット上で徹底的につるしあげられました。有志によって実名が特定され、住所や顔写真、交友関係、はては自宅の不動産登記簿謄本の画像までネットにアップされました。

コンピュータウイルスや誤操作で個人情報が流出したり、人違いで個人情報を晒されて中傷を受けた事例もあります。

個人情報の漏えいは、いまや誰もが直面するリスクといえます。 ネット上の情報は容易に拡散され、しかも半永久的に残ります。

自分の意に反して広まった情報は、もはやどうすることもできないのでしょうか。

プライバシー侵害は、民法709条の不法行為(故意または過失によって他人の権利や利益を違法に侵害する行為)に該当する場合があります。その場合、情報が掲載されたブログや掲示板の管理者に削除を請求したり、損害賠償を請求することができます。

どのような情報ならプライバシーとして保護されるのでしょうか。

日本初のプライバシー訴訟である昭和39年の『宴のあと』裁判で、東京地裁はプライバシー侵害の要件として、

(1)私生活上の事実または事実と受け取られるおそれがあり、
(2)一般人の感受性を基準として、当該私人の立場に立ったときに公開を欲しないだろうと認められ、
(3)一般の人に知られていないこと、

という3つをあげました。病歴や前科、出自、宗教といったセンシティブな情報の公開は、これらの要件に合致する可能性が高いでしょう。

もっとも、ネット上の炎上事件で晒されるのは、名前や住所、SNSの日記といった公開情報が中心で、先ほどの3要件に必ずしも該当するわけではありません。こうした公開情報は保護対象にならないのでしょうか。

プライバシーの保護範囲は、時代とともに広がっています。もともと公開されている情報でも、本来の趣旨と異なる形で公開され、私生活の平穏に重大な脅威を与えているなら、現在はプライバシー侵害とみられる場合もあります。


プライバシーの保護については、他の利益とのバランスも考慮する必要があります。

犯罪報道で被疑者の実名が報道されるのは、被疑者のプライバシーより、治安維持や国民の知る権利といった利益のほうが大きいと考えられているからです。逆に微罪なのに鬼の首をとったように私生活を暴けば、プライバシー侵害のほうが上回って不法行為になります。

プライバシー侵害と認められても、一度流出した個人情報をネット上から完全に消し去ることは難しいです。法的な手続きを踏んでいるのに削除に消極的な掲示板管理者がいたり、すでに拡散していて削除請求が追いつかないケースも多いからです。

2013年10月17日木曜日

個人データ抜く「アプリ」

スマートフォンの個人データを抜き取るアプリの公開が後を絶ちません。

約9万人のスマホがウイルスに感染し、電話帳にある電話番号やメールアドレスなど1190万件以上の個人情報が流出しました。しかもネットの裏情報では、逮捕された関係者が運営する出会い系や4クリック詐欺サイトから、闇金グループに金が流れているという情報が寄せられていました。この事案で、アプリを公開したとしてIT関連会社の社長ら男女5人が逮捕されました。この件について、東京地検は嫌疑不十分で不起訴処分としました。

なぜ不起訴になったのでしょうか。

スマホのアプリには、必ずパーミッション画面が現れます。インストール直前に「同意します」「同意しません」という表示が出る例の画面です。今回不起訴処分となった背景には、個人情報を収集することにユーザーが同意した点、かつそのアプリがユーザーに説明した通り動画を再生する機能を満たしていた点、この2点の理由があったようです。

しかし実際のところ、多くのユーザーがパーミッションの同意事項についてよく読むこともなく、甘い誘惑に駆られて同意を与えているのが現状です。個人情報保護法では、本人の同意なく第三者に個人情報を提供してはならない、と定められているのですが、それを逆手に取ったやり方といえるでしょう。

今回の不起訴処分により、今年はこうした不正アプリの横行が予想されます。法律が追いついていない以上、自分の身は自分で守るしかありません。

従来の情報漏えいと比べて深刻なのはスマホが電話であり、その中のアドレス帳に友人や取引先など個人情報が入っている点です。漏えいすれば他人に迷惑をかけることになります。「通話無料」「電波改善」「バッテリー長持ち」などを謳う中に、危険なアプリが少なくないのです。いま一度、自分のスマホ内のアプリを見直すことをお勧めします。

参考 個人データ抜く「アプリ」が罪に問われぬ理由

2013年10月16日水曜日

死後のデジタル資産の扱い、ネット上の通信の秘密

GmailやFacebookなどで、自分のプライベートなデータをネット企業に預けている人は多いでしょう。セキュリティに注意していれば、中身が外に漏れることはありません。しかし、本人が死んでしまったら、そのデータはどうなるのでしょうか。

故人のメールを見るニーズ

身内が亡くなると、以下の理由で故人のメールを見るニーズが発生することがあります。
  • 葬儀の通知を出したいが、故人の交友関係を知らない。
  • 家業を継ぐが、亡父が取引先とどのような話をしていたのかわからない。
  • 息子(娘) が自殺した原因を知りたい。 
  • 過労死であることを証明するため、過労死した故人のメールを確認したい。
とくに最近ではネット証券やネット銀行などの金銭絡みのアカウントもあるので注意が必要です。もしもデータを残していないと、あなたの貴重な財産が遺族が気づかないままほったらかしにされる事態になりかねないからです。 

端末内に有るデータは簡単に見ることはできますが、クラウド上にあるデータは厄介です。 Gmailを初めとするWEBメールは同じような問題を孕んでいます。

デジタルの世界の権利関係

日本では運営事業者と遺族との間で裁判所で争われたことが公表ベースではありません。そもそもデジタルの世界にはどのような権利が存在しているのでしょうか。

通信の秘匿、個人情報保護、著作権、デジタル財産権などいくつかの権利があります。

メールやメッセージのやり取りは通信の秘匿にあたります。

SNSでの書き込みや写真、イラストなどは著作権が関わってきます。

電気通信事業法の「通信の秘密」

通信の秘密は日本国民に認められた権利であり、憲法や電気通信事業法で保障されています。政府はもちろん、インターネットサービスプロバイダなどの電気通信事業者、さらに一般人も人の電子メールを勝手に見てはいけないことになっています。

犯罪捜査で捜査機関がプロバイダに情報開示を迫ることはあるものの、それも無制限ではありません。プロバイダが警察から捜査関係事項照会を受けて、ユーザーの名前や住所などの登録情報を本人の同意なく提供するケースはあります。ただ、メールの中身を明かすとなると、ハードルが一気に上がります。電気通信事業法に抵触する恐れがあるので、令状なしでは無理です。

個人情報保護法は、「個人情報」を生存する個人に関する情報に限っているため、死者に関する情報は保護の対象ではありません。しかし、電気通信事業法の「通信の秘密」の保護対象は、一般に生きている者に限定されていないと解釈されています。犯罪にかかわったなどの特殊なケースを除き、プロバイダが本人の許可なく第三者に明かすことはないと考えて良いでしょう。

 一方、遺族の側から見ると、この状況は厄介です。身内が亡くなると、故人のメールを見るニーズが発生することがありますが、通信の秘密の高い壁が立ちふさがるのです。


デジタル資産

では、電子データを「デジタル資産」などと呼ぶことがありますが、メールのデータを資産だと解釈し、遺族が「相続」することはできないのでしょうか。


データに資産的価値がある芸術的な写真や文章が含まれていれば、相続財産だという解釈も可能かもしれません。でも、事務的なメールだと、そのような解釈は難しいでしょう。メールアカウントは一身専属性が強く、相続財産とみなすのは難しいでしょう。

これは、『一身専属権』の考えがあるからです。

一身専属権とは、ある人の一身に専属し、他人が取得または行使することのできない権利のことです。個別の人だけに帰属するもので、特殊な技能的な技術を相続、譲渡はできないことを指します。医師免許や弁護士免許などがそれにあたります。  


運営者の実務上の取扱い

では、もし遺族がプロバイダに情報開示を要求したらどうなるのでしょうか。


一身専属権という考えに基づいて、サイト「BIGLOBE」(NECビッグローブが運営)の会員規約では第8条(権利の譲渡等)の中で、「会員が死亡した場合は、BIGLOBEサービスを受ける権利を相続人が承継することはできません」と明記しているようです。


Gmailの場合、故人の正式な代理人としてアカウントへアクセスしたい場合の手続きは、HPに掲載されています。

まず、身分証明書、死亡診断書、故人のGmailアドレスから受信したメッセージのヘッダーと全文などの証明書類を提出します。審査をパスすれば、米国の裁判所命令や追加書類の提出など、さらなる法的手続きへと進みます。

Gmailの場合は、他のユーザーがあなたに代わってメールを閲覧、送信、削除できるように、Gmail へのアクセス権を他のユーザーに委任することができるそうです。
https://support.google.com/mail/answer/138350?hl=ja


Google以外では、事業者によって対応は異なり、それぞれのホームページなどにユーザーが亡くなった場合の対処法が掲載されています。たとえば Facebookでは、ユーザーが亡くなると遺族のリクエストによってアカウントが追悼アカウントとなり、メモリアルページに変更することができます。も はやログインはできなくなり、選ばれた人のみがメッセージを残せるようになるのです。

一方、Yahoo!などのようにユーザーが亡くなっても、遺族を含めたいっさいのアクセスを認めない厳格な事業者もあります。

ただ、会員が亡くなることを想定して、アカウントやパスワードの取り扱いについて明確な基準を定めているITサービス事業者は一部にとどまります。一般的には、ケースバイケースで判断されるようです。ほとんどのサービスはユーザーの死を想定すらしていないのです。

あらかじめ利用規約で手当てしておくことが理想的ですが、通信の秘密や相続といったデリケートな問題が絡むだけに、いまの段階ではルール化しづらいのでしょう。誰にどこまでデータを引き継ぐかユーザー自身に生前登録させるなど、柔軟な仕組みづくりが求められます。


もしあなたがもしものときに備えてメールアカウントの後始末を遺族に託したいなら、IDやパスワードなどの必要なデータやアカウントの扱いに関する希望などをなんらかの形で残しておくべきでしょう。たとえば遺書やエンディングノートなどにそれらのデータが書かれていれば、遺族は容易にアカウントにアクセスしてデータを取り出したり、削除することができるでしょう。





2013年10月15日火曜日

レシピと著作権

1.レシピの著作権

 レシピの著作権についてはどのように考えれば良いでしょうか?

  レシピは、著作物として認められにくい可能性があります。著作権には、事実、アイデアは保護せず、表現のみを保護するという原則があります。レシピのうち分量や手順については、表現の余地がほとんどなく、事実そのものといってよいでしょう。斬新な調理方法など、料理のアイデアも保護の対象外です。

 もっとも、同じ分量や手順でも、個人的なコメントを入れたり、イラストや写真を加えていけば、レシピも表現の一つといえるでしょう。

 したがって、例えばブログなど、インターネット上で公開されているレシピについて、作成者に無断で写真を流用するような行為は、著作権侵害の可能性があるので、注意が必要です。


2.レシピ本の著作権

 会社の栄養士がレシピ本を出版した場合、栄養士は著作権者として印税をもらえるのでしょうか?

 まず、レシピ本は著作物として認められにくい可能性があります。著作権には、事実、アイデアは保護せず、表現のみを保護するという原則があります。レシピのうち分量や手順については、表現の余地がほとんどなく、事実そのものといってよいでしょう。斬新な調理方法など、料理のアイデアも保護の対象外です。

 もっとも、同じ分量や手順でも、個人的なコメントを入れたり、イラストや写真を加えていけば、レシピも表現の一つといえるでしょう。

 次に問題となるのは、「職務著作」です。「職務著作」とは、会社の職務として作成した著作物について、法人等が著作権者としての地位を得ることができる制度(著作権法第15条)です。作成したのが個人でも、会社が資金を出してリスクを取ったなら、その成果を会社に帰属させるべきという考え方に基づいています。

 類似の制度として、特許法の規定する「職務発明」があります。職務発明の場合、特許はまず発明者個人に帰属し、それを会社に譲渡することになります。一方、職務著作は最初から著作権が会社に帰属します。譲渡する代わりに相当の対価を得られる職務発明と違い、職務著作の場合は会社が作成者に対して特別な対価を支払う義務はありません。

 したがって、レシピ本も、社員である栄養士が職務として作成した場合は、法的には印税は会社のもので、分け前を支払う必要はないということになります。

 どこまでが職務著作で、どこからが自分のものといえるのでしょうか。

 職務著作には、以下の5つの要件があります。

 《職務著作の要件》  
① 法人等の発意に基づき創作された著作物であること  
② その法人等の業務に従事する者が創作した著作物であること  
③ その法人等の職務上創作した著作物であること  
④ その法人等の著作名義で公表された著作物であること  
⑤ その法人等内部の契約や就業規則等に別段の規定がないこと 

 上記の要件のうち、注意が必要なのは②です。労働法上、派遣社員やアルバイトは会社と雇用関係にありませんが、会社の指揮命令で動いていれば著作権法上、業務に従事する者とみなされやすいです。

 ④「著作の名義」も、難しい問題を孕んでいます。会社名か個人名、どちらかで発表されていれば著作権者は明確ですが、「○○社××部長○田×朗」のように両方の名が入っていると話がややこしくなります。 ケースバイケースですが、両方の名が入っている場合は、著作の内容についてどちらが責任を取るのかというところが判断の分かれ目になるでしょう。もし自分の著作物であることを示したいなら、自分の名を著者として入れておくべきです。本であれば『これは私の個人的見解であり、所属する組織を代表するものではありません』と一言入れておくと、個人の著作であることがより明確になるでしょう。

2013年10月14日月曜日

動画投稿サイトの視聴と著作権

見逃したドラマを動画投稿サイトで視聴したことはありますか? もし、心当たりがあるなら、今後は気をつけたほうが良いでしょう。ドラマを動画投稿サイトにアップロードすることはもちろん、視聴することも著作権侵害として捕まる恐れがあるからです。

違法アップロードについて

著作権は著作権者に与えられた知的財産権の一種で、さまざまな権利から構成されています。ドラマなどのコンテンツを著作権者の許諾なく動画投稿サイトに投稿すれば、複製権(著作権法第21条)の侵害になります。不特定多数の人が視聴できる状態にすれば、送信可能化権(同法第23条1項)の侵害になります。

違法アップロードはしていないという人も、注意が必要です。違法にアップロードされた動画へのリンクを張るのも、著作権の侵害行為にあたる可能性があります。最近の動画投稿サイトはSNSと連携して簡単にリンクを張ることができますが、それによってアクセスが増えれば公衆送信権(同法第23条1項)の侵害を幇助したとして罪に問われる可能性があります。

もっとも、違法性が高くても警察が動くかどうかは別次元のことです。著作権侵害は、著作権者が告訴しないかぎり刑事罰に問えない親告罪です。通常は、著作権者から通報を受けた動画投稿サイトが削除するなどの対応をするため、告訴に至らない場合がほとんどです。

とはいえ、過去にはYouTubeへの違法アップロードで逮捕された例もあります。
  • 2010年6月には『週刊少年ジャンプ』の中身をデジカメで撮影して投稿した男子中学生が逮捕されました。
  • 2011年5月には、アイドルグループ「嵐」のDVD映像やバラエティー番組をYouTube上に公開した男性が逮捕されました。
では、 いったいどの程度のものであれば、警察が動き出すのでしょうか。

逮捕されるのは、かなり悪質なケースと言われています。何度も削除されたのにしつこくアップを続けたり、コンテンツの発売以前に内容を公開していれば、著作権者としても放置できませんし、警察も動かざるをえなくなります。

視聴者側について

2012年10月1日から改正著作権法が施行されました。違法にアップロードされた著作物と知りながらダウンロードすることは、従来から違法とされてきました。しかし、これまでは罰則がないため事実上、野放し状態でした。そこで、法改正により、有償の音楽や動画を違法な配信と知りながらインターネットからダウンロードする行為に2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科されることになりました。

違法動画の閲覧は、ダウンロードではないから、「本当に観るだけ」なら、刑罰を科されることはありません。  しかし、自分では「単なる閲覧」と思っている行為が、実態はダウンロードだったとしたらどうでしょうか。

一般に動画サイトの動画は、主にダウンロードとストリーミングの方式があります。ダウンロードは、動画ファイルそのものをハードディスク上にコピーし、後でこれを再生する方法です。  一方、ストリーミングは、動画ファイル自体を入手するわけではなく、サーバーから流れてくるデータをいったんメモリー上に置き、その場で次々に再生し、再生が終わったデータはメモリーから削除される方式です。  後者なら、複製ではないし、ファイルをもらうわけではないので、「本当に観るだけ」といえます。

しかし、最近はダウンロードとストリーミングの良さを組み合わせたプログレッシブ・ダウンロードという技術があります。見かけ上はストリーミングですが、実際にはファイルを裏側でハードディスク上にダウンロードして、複製したファイルを再生しているにすぎません。そのため、「疑似ストリーミング」とも呼ばれています。要は実質的な「ダウンロード」なのです。

実はYouTubeやニコニコ動画は、このプログレッシブ・ダウンロードに当たり、「観るだけ」のつもりがダウンロードになっています。 YouTubeを利用すると、パソコン内のある場所に、視聴した動画ファイルがキャッシュ(一時記録)ファイルという形で保存されます。

これに関して文化庁は、YouTubeでの違法動画の閲覧に伴って手元のパソコンに作成されるキャッシュファイルは、「著作権法47条の8という例外規定が適用され、権利侵害にならないと考えられる」としています。

しかし、文化庁の解釈は裁判所で否定されたこともあり、文化庁が言っているから大丈夫というわけではありません。技術を詳細に検討した結果、裁判所が適用を否定するという可能性があります。

しかも、この例外規定には、あくまでもネット経由で送信されたデータを受信して観る場合という但し書きがあります。  この但し書きは、同じ動画をもう1度再生するときに問題となります。2度目の再生では、YouTubeのサーバーから再度データが流れてくるのではなく、手元のキャッシュファイルが再生されます。これはまさにダウンロード済みのファイルを再生していることになり、例外規定は適用されず、違法になりかねないのです。

本当にプログレッシブ・ダウンロードが対象外ならば、きちんと著作権法に反映させるべきだったのですが、現状は曖昧で場当たり的な規定になっています。  このような曖昧な規定は、警察によって恣意的に運用される可能性もあります。

違法アップロードさえ逮捕例が少ない現状では、視聴によって逮捕されるリスクは低いでしょう。ただ、著作権侵害が横行する状態が続けば、見せしめ的に逮捕 が行われる可能性もあります。例えば違法アップロードを発見して、プロバイダに資料を提出させ、ダウンロードした者を割り出す。その中に“めぼしい人物”がいたら捜索・差し押さえするようなケースです。めぼしい人物とは、有名人、一流企業の社員など見せしめ効果のある人間ということになります。心当たりのある方は、注意するに越したことはないでしょう。 著作権への高い意識を持つことが求められます。



2013年10月13日日曜日

善管注意義務

東電や勝俣前会長に法的な責任はあるのでしょうか。

原子力損害の賠償に関する法律第三条によると、原子力事業者は原子力損害に対して無過失責任を負うことになっています。しかし、但し書きに「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない」と免責規定があります。

今回の震災が「異常に巨大な天災地変」にあたれば東電に賠償の責任はないことになります。もっとも、これは議論のありうるところで、全電源喪失は予見可能だったから、異常に巨大な天災地変とはいえないという見解もあります。

また、勝俣前会長を含めた現・旧役員27人は、善管注意義務等に違反して損害を生じさせたとして、計約5兆5000億円の賠償を求める株主代表訴訟を起こされました。善管注意義務とは、善良な管理者が負う注意義務のことです。業務を委任された人は、通常人が期待する程度の注意を払い、考えられるリスクに対して対策する義務を負います(民法644条)。

2013年10月12日土曜日

健康診断と法律

面倒でもサボッてはいけない

健康診断は、労働者の権利ではなく義務です。 事業者は労働者に対して、年1回、定期的に、医師による健康診断を行う義務を負います。ただ、義務が課せられているのは事業者だけではありません。労働者も、健康診断を受ける義務を負っています。自分の好きな病院で受診することも可能だが、その場合も結果を事業者に書面で提出する必要があります。違反しても罰則はないが、だからといって受診しなくていいことにはならないのです。

行政通達によると、健康診断の費用は会社が負担すべきだとされています。ただし、健康診断を行っている時間は、必ずしも法的に有給とする義務はありません。たとえば健康診断に半日かかったら、会社は半休扱いにしたり、その時間の賃金をカットしてもいいのです。

一般的な健康診断について、会社に健康診断時の賃金を支払う義務が課されていないのも、健康診断に関して労使双方が義務を負っているからです。また、会社で働いていようといまいと、人であれば自らの健康管理というものについては、普通に行われてしかるべきである、と考えることもできます。

健康診断を受けないと、相応のリスクもあります。過労で倒れるなどの業務災害に見舞われた場合、一般的には労災保険給付の申請をしたり、会社側に損害賠償請求を行うことになります。しかし法に定められた健康診断を受けていないと、過失相殺されて労働者側に不利に働くケースもあるのです。

一方、会社側のリスクはどうでしょうか。常時50人以上の労働者を使用している事業者は、労働基準監督署に健康診断の結果を報告する義務があります。実施報告書の人数と、実際に受診すべき人数が合わない場合、労基署から勧告や指導が入る可能性もあります。

また、社員に健康診断を受けさせる義務を果たしていないとみなされると、事業者は50万円以下の罰金に処されるのです。

どこから法令違反になるのかはケースバイケースですが、1回、スケジュール調整をして、あとは知らん顔という程度では、義務を果たしたとは認められにくいでしょう。社員がすっぽかしたら、少なくとも何回かは調整が必要です。そうした事業者としての義務を果たそうとした努力の経緯を労基署に説明できないと、違反とされるおそれがあります。

こうしたリスクを考えると、健康診断を渋る社員にも、何とか受診させたいところです。そのためには所定時間内で会社が賃金を負担するなど、社員が受診しやすい環境を整えることが第一でしょう。

就業規則に「社員は健康の維持に努め、会社の指定する医師の診断を受けなければならない。」と明記してもよいでしょう。就業規則に定めがあれば、それを根拠として社員に働きかけることが可能です。健康診断の受診拒否を理由として処分できるとしても、処分の程度は比較的低いものと考えるのが一般的ですが、十分に効果があるはずです。


検査項目を断れるのか?
 
年に1回、会社で受ける健康診断は、会社が費用を負担してくれるものです。タダで健康管理ができて、ありがたいことですが、なかには体重やメンタルヘルスの結果など、人に知られたくない項目もありますよね。断れる検査はないのでしょうか。

法律によれば、事業者は労働者に対して医師による健康診断を行う義務を負っています(労働安全衛生法第66条1項)。そうして法律は快適な職場環境を確保し、経済活動を下支えしています。違反した企業は労働犯罪として処罰の対象(最高で50万円の罰金)になる可能性すらあります。

ただ、義務を負うのは会社側だけではありません。労働者側にも事業者が行う健康診断を受ける義務があります(同条5項)。

健康診断には、法律で必須とされている項目と、そうでない項目があります。必須項目については、当然ながら受診拒否はできません。必須でない項目についても、会社側の安全配慮義務や労働者側の健康保持義務の観点から、診断を受けさせる義務・受ける義務がある程度認められています。しかし、仕事に関係がないものや就業規則に書かれていないものはグレーゾーンで、拒否できる余地があります。

たとえばメンタルヘルスは法定外の項目です。法律では時間外労働が月80時間を超えた人にカウンセリングを受けさせるよう決まっていますが、そうでない人にまで定期健康診断で精神科の面接を受けさせるのはやりすぎで、拒否できる可能性は十分にあります。

一方、必須項目である体重については測定を拒否できず、会社に内緒にしておくこともできません。「体重は個人情報だから教えたくない」という理屈も通らないのです。個人情報保護法では、会社が個人情報を取得する場合には従業員の同意が必要とされています。しかし、他の法律で定めがあるときは適用外です。体重については労働安全衛生法に定められているので、個人情報保護法を盾に取ることはできません。

もっとも、健康診断実施の事務に従事した人がそこで知りえた秘密を漏らす行為は法律違反となります(労安法104条)。必要があれば直属の上司に通知されるケースもありますが、必要もないのに健康診断の結果を社内に広めることは許されません。秘密を洩らした人は6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金で、会社も刑事罰を受けることになります。

見落としの責任は問えるか

診断を受ける側にとっては、無料であるため、その重要性が見落とされがちですが、健康診断を通じて、ガンなど重大な病気の発見につながることもあります。

しかし、大企業の定期健診を担当している医師の中には、診断が不十分な場合もあります。

従業員が多い企業の健康診断では、担当医が一度に大量の診断を余儀なくされます。定期健診の対象となる従業員の頭数が増えるほど、担当医の実入りはよくなります。

一方、従業員ひとりにかける時間や集中力が減殺され、問題ある症状を見落としかねません。ガンなどの早期発見を逸する危険も高まります。 殊に肺ガンの兆候を見極めるレントゲン読影では、病巣の影と、それ以外の影(鎖骨や昔かかった結核の痕など)との区別をしづらい場合があるそうです。 そこで、その人の過去のレントゲン写真と見比べ、変化を読み取る『比較読影』が重要となります。にもかかわらず、一度撮影したレントゲン写真を倉庫へしまい込んだまま比較を怠る、おざなりな健康診断も横行しています。

では、医師は定期健診の診断結果に対してどの程度責任を負うのでしょうか。

ガンなどを含めて病気の兆候を見落とされた場合は医療ミスとして医師の責任を問うことができます。多額の損害賠償や慰謝料を患者側が請求できる医療ミスとしては、手術や投薬の間違いなど。加えて、健康診断のように保健福祉的な領域でも、その落ち度に関して法的な責任を問える場面があります。

たとえば、健診の後に、ガンなど重大な病気にかかり、大手術を受けて命は助かった場合を考えてみましょう。

仮に健診が真っ当に行われていれば、ガンを早期発見でき、小さな手術で済んだはずであることが証明できたのなら、その差額や精神的苦痛を損害賠償として請求できます。

しかし、たとえば不幸にして亡くなってしまった場合、遺族が損害賠償を請求しても、症状の進行が早い肺ガンなどの疾病では、「仮に見落としがなかったとしても、手遅れでいずれ亡くなっていたでしょう」と判断されることもあり得ます。その場合は見落としと死亡の間に因果関係がなくなるため、死亡についての法的責任は問えません。

このように、実際に損害賠償が認められるかどうかは、個別のケースによるということになります。

医療訴訟は専門的で敷居の高い分野です。健診のミスを指摘するには、別の医師による証言が必要ですが、まるで同業者を売るかのような証言には多くの医師が躊躇することもあり、協力を得るのは簡単ではありません。このような医療事故に遭った場合は、医療裁判に関する経験や人脈が豊富な弁護士を頼るべきでしょう。

2013年10月11日金曜日

acknowledge

acknowledgementという契約の一方当事者がある事実の存在を確認するという条項です。



”The investor acknowledges that it has received a copy of the Articles of Incorporation.”

事実表明や事実の確認の時点は、契約の締結の時点であることを意味します。

Licensee acknowledges that XXX may increase the fees payable by Licensee hereunder, not more than once in any calendar year, by notice to Licensee at least thirty (30) days prior to any such increase.

2013年10月10日木曜日

notwithstanding 「~もかかわらず」

notwithstandingは、 「~もかかわらず」という譲歩の意味を表す前置詞です。

この単語がでてくると、その後には必ず例外事項が出てきますので、契約書を読む時には注意しなければならない言葉の1つです。

notwithstanding the foregoing(その他に above、foregoing paragraph など)のような使い方をします。

【例文】
1.  Notwithstanding the foregoing, the license provided herein does not permit the Customer to, and Customer agrees not to and shall not modify, unbundle, reverse engineer, or create derivative works based on the Software.

上記にかかわらず、本契約において付与されるライセンスは、カスタマーによる本ソフトウェアの変更、切り離し、リバースエンジニアリング、またはこれに基づく派生物の生成を認めておらず、カスタマーはこれらを行わないことに同意し、これらを行ってはならない。
 
2.  Notwithstanding anything contained in this contract to the contrary, no warranty, express or implied, is made with respect to the information provided hereunder.

本契約においてこれに矛盾する定めがあろうとも、本契約に基づき提供される情報に関しては、明示的または黙示的ないかなる保証もなされていない。
2の notwithstanding anything ...to the contrary も、よく使用される定型的な表現です。時には notwithstanding を後に置換した形もありますので注意しましょう。 

1と2では、同じ notwithstanding ですが、訳し方を変えてあります。2の方は notwithstanding の後に続く部分が長いので、前置詞的に訳すと不自然な日本語になってしまうからです。

2013年10月7日月曜日

土地収用

今回は土地収用について書きます。

土地収用とは

土地収用は、道路や鉄道の建設など、公共の利益となる特定の事業を行うために、法律に基づいて強制的に土地の所有権を取得することです。

土地収用の要件や手続き、補償金などについては土地収用法で定められています。

同法による事業以外でも、市街地再開発などの都市計画事業、住宅地区改良事業などを公的セクターが行う場合には収用権が認められています。

土地所有者との協議が整わない場合は、収用委員会の裁決によって実行することができます。

土地収用の補償

憲法第29条第3項に基づき、私有財産権を公共のために用いることが正当な補償の下に行われなければならないこととなっており、これを受けて土地収用法第6章において、損失の補償に関する規定が設けられています。

土地収用法における損失補償は、基本的には完全補償です(最高裁判所昭和48年10月18日判決)。

土地収用の手続

起業者は、事業のために土地を収用し、又は使用しようとするときは、国土交通省又は都道府県知事の事業認定を受けなければならず、認定を受ける前に、国土交通省令で定める説明会等で事業の内容を利害関係人に説明しなければなりません(土地収用法第15条の14、第16条、第17条)。 
利害関係人は,意見書を提出したり,公聴会開催を請求をすることができます(法第23条、25条) 。

裁決に不服がある場合

損失の補償について不服がある場合は、裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して6か月以内に、裁判所へ当事者訴訟を提起できます。
この場合、訴訟を提起する者が、起業者であるときは土地所有者又は関係人が、土地所有者又は関係人であるときは起業者が、それぞれ被告となります。  
損失の補償以外についての不服は、裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して30日以内に国土交通大臣に審査請求をすることができます。  
また、損失の補償以外について不服がある場合、裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して3か月以内に、神奈川県(代表は神奈川県収用委員会)を被告として、裁判所へ抗告訴訟を提起することができます。


なお、採決に不満があるために裁決書や補償金の受領を拒否しても、所定の手続き(公示送達、供託など)がとられた場合、土地所有者及び関係人は、裁決書と補償金を受領したものとみなされます。  したがって、裁決は有効ですので、土地所有者及び関係人は、明渡期限までに物件を移転し、起業者に土地を明け渡す義務が生じることになります。 

2013年10月6日日曜日

民事訴訟の期間・費用

今回は民事訴訟の期間・費用について考えてみたいと思います。

1.第一審の判決がでるまで、どのくらいの期間がかかるのでしょうか?

事案の性質にもよりますが、裁判所の「民事第一審訴訟事件等の概況」によれば、平成22年における民事第一審訴訟事件の平均審理期間は6.8ヶ月とされています。

2.では、判決が執行されるまで、どのくらいの期間がかかるのでしょうか?

民事裁判の判決も、賠償されなければ、十年で時効となり、判決書自体が紙くずとなってしまいます。

3.ちなみに、皆さんは、どの程度の訴額だったら訴えを考えますか?

2012年の一人当たりの名目GDP(USドル)は46,706.72USドル(世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング)。およそ460万円です。

例えば約70万円の訴額だったら、日本人の一人当たりの名目GDPの0.15倍程度ですね。これくらいなら訴えますか?

4.訴訟費用

以下ではざっくりわかりやすく訴額100万円で考えたいと思います。

民事訴訟における訴訟費用は、裁判所に納める訴訟費用と、証人等に対する給付に区分され、裁判所に納める訴訟費用はさらに、手数料と手数料以外の費用に分けられます。

法律で定められている訴訟費用は,基本的には敗訴者が負担することになります。訴訟費用には,訴状やその他の申立書に収入印紙を貼付して支払われる手数料のほか,書類を送るための郵便料及び証人の旅費日当等があります。

訴えの提起手数料は、訴訟の目的の価額が百万円までの部分 その価額十万円までごとに 千円です。例えば、訴額10万円だと 1,000円、訴額100万円だと10,000円。

上記訴訟費用は,訴訟を追行するのに必要なすべての費用を含むわけではなく,例えば,弁護士費用は訴訟費用に含まれません。一番かかるのが弁護士費用ですが、勝敗にかかわらず、弁護士費用はあくまで自己負担になるわけです。

では、実際の弁護士費用とはどのくらいの額になるのでしょうか?

この点、「訴訟費用 -お金をかけずに裁判を起こすことはできるか」が参考になります。

仮に100万円を請求する民事裁判を起こしたとして、多くの事務所が採用する旧報酬規程により、単純計算すると、  

法律相談料 5250円/30分  
内容証明郵便作成 3万1500円~  
着手金 100万円×8%×消費税  
報奨金 100万円×16%×消費税 

 などが主な費用です。


これらをざっと計算すると、全面勝訴した場合約25万円となり、敗訴した場合、報奨金は支払う必要がないが、着手金は自己負担です。

つまり、一部勝訴で50万円の支払いが判決として認められたとすると、手元に残るのは30万円あまりとなります。

さらに自分の経費や本来の訴訟費用など、諸費用を入れると手元に残るものはなくなってしまうのが現実のようです。

さらに、実は、相手負担が認められる訴訟費用に関しては、実際に請求するには別途訴訟費用を確定する手続きが必要なこともあって、勝訴しても、相手に請求することはまれのようです。仮に1000万の訴訟をしても印紙代は5万円なので、最終的に敗訴した側に請求しないことが多いのです。

このように、訴訟をするなら弁護士費用も訴訟費用も結局は自己負担になると考えておくべきでしょう。

ただし、60万円以下の金銭支払いを求める訴訟に適用される少額訴訟については、弁護士を頼むこともなく自身でも簡単に進めることができます。裁判日数も1日と短いのが基本なので、費用を抑えたい。すぐに結果を求めたいときに有効です。

また、弁護士を頼まずに本人訴訟をするという方法もあります。裁判所には交通事故や敷金返還訴訟など、よくある裁判の訴状の定型フォーマットが用意されています。

2013年10月4日金曜日

解雇特区って・・・


日経新聞の記事によれば、雇用特区の対象者は、修士号・博士号保有者や弁護士・公認会計士等の有資格者対象に限定するとのこと。つまりはこれらの人たちを解雇しやすくするということ。


突っ込みどころは、


① そもそも論として、人材の流動化を進めたいなら、対象を特区ではなく社会全体に広げないと、需要供給のバランスが取れない。「特区に入ったが最後、常に雇用が不安定」となる一方で、特区外は相変わらず雇用が固定しているのでは、どうにもなりません。対象者が不幸になるだけではないでしょうか。人は物じゃないんです。特区という発想自体、どうかと思います。

② 対象者については、修士号保有者まで含める点で広汎すぎると思います。今や修士号保有者は結構多いし、そもそも修士号があるからといっても、即就職につながるとは限らないような気がします。

③ また、弁護士も例としてあげられているけれど、そもそも企業内弁護士はまだ少ないし、契約形態も雇用契約とは限らないので、あまり関係ない気がします。


④ そもそも、外資系企業においては、もとから雇用が不安定です。ここで解雇規制を緩和したところで、外資系企業にとって日本の魅力がUPするとは思えません。外資系企業にアピールしたいなら、やはり法人税の減税とか、思い切った変革が必要です。

実際のところは、これをきっかけに解雇規制を緩和したいだけではないか、と思います。

アメリカのように、徹底的に雇用が流動化していれば、どこかで解雇されてもまた次のチャンスがあると思うのですが、日本のように雇用が固定化した社会でこういう中途半端な制度を導入しても、対象になった人が不幸になるでしょう。繰り返しますが、人は物ではありません。

2013年10月1日火曜日

本の「自炊」

自炊代行業

  典型的な自炊代行業の利用パターンは次のとおりです。

(1) 蔵書を業者に郵送
(2) 業者が書籍を裁断、スキャンしてPDFファイルなどに電子化
(3) 電子ファイルを納品

 個人が機器をそろえて裁断したりスキャンしたりするのは手間なため、1冊100~200円程度の料金で肩代わりしてくれる代行業者のニーズは大きいです。最初から電子書籍で買えば済む話ですが、まだ日本の電子書籍市場は本格的に立ち上がったばかりで、品ぞろえが十分でないことも、背景にあります。  

 それではなぜ、自炊代行が法的問題になる可能性があるのでしょうか。電子化は著作権法上の「複製」行為です。個人が自ら楽しむ範囲で行う場合は、「私的 複製」として例外的に著作権者の許可なしに行うことが認められています。本の持ち主が自宅で、自分の裁断機やスキャナーを使って、自分で行う限りは何も問 題はありません。しかし、それを業者が代行した場合、「私的複製」の延長線上の行為として合法となるのか、業者による複製であることには変わりがないので 違法とみなされるのかがはっきりしていないのです。

 2013年9月30日、顧客からの依頼で本や雑誌の内容をスキャナーで読み取り、電子データ化する「自炊代行」の適否が争われた訴訟の判決で、東京地裁(大須賀滋裁判長)は、「著作権法で認められた私的複製には当たらない」との判断を示しました。その上で、東京都内の代行業者2社による著作権(複製権)侵害を認め、複製の差し止めと計140万円の損害賠償を命じました。

  訴えたのは、作家の浅田次郎さんや漫画家の永井豪さんら7人。著作権法は個人利用に限って私的複製を認めており、本の持ち主や家族が「自炊」するのは法的に問題はありません。自炊代行が私的複製に当たるかどうかの初の司法判断です。

  判決によると、2社は顧客から送付された本を裁断してスキャナーで読み取り、電子データに変換するサービスを有料で提供していました。

 業者側は「顧客の手足として、私的複製を補助しているだけ」と主張しましたが、大須賀裁判長は判決理由で「顧客は本を送付した後の作業に全く関与せず、業者が主体となって複製をしている。私的複製とはいえない」と判断。2社は作家側の警告後も複製を続けており「今後も著作権侵害の恐れがある」として、差し止めの必要性も認めました。

  原告弁護団は「無許諾の書籍スキャン事業は違法だと明確に示されたことには大きな意義がある」とコメント。被告のうち、東京都葛飾区の代行業者は「愛読家にとって不当な判決。控訴する」としています。


自分の本を自炊店に持ち込んで、本人が勝手に電子化した場合

 では、自分の本を自炊店に持ち込んで、本人が勝手に電子化した場合はどうでしょうか。

 著作権法は付則で、公衆利用のために設置された複製機器で利用者が文書などを複製することは私的複製の範囲と、暫定的に定めています。  

 コンビニエンスストアでのコピーは合法ということです。だから、書籍を自炊店に持ち込んで電子化する行為はコンビニでのコピーと変わりないので、合法となる可能性が高いです。

 これに対し、利用者が持ち込んだ本をコンビニの機器でコピーするのとは異なり、施設が所有する本を貸してコピーさせる行為は施設側の関与の度合いが大きくなるので、私的複製の範囲から外れる可能性が高まります。

 ただ実際には、多くの図書館では利用者が勝手に図書館の蔵書をコピーするわけではありません。窓口で申請して、「1冊の半分まで」など限られた範囲だけコピーできるルールになっています。図書館の場合はコピー範囲を制限することで、例外的に「利用者の求めに応じ、その調査研究のために著作物の一部分を複写できる」ことが著作権法で規定されているためです。  

 しかし、図書館でも民間サービスでも、貸し出した書籍を施設内で、利用者が自ら、好きなだけ複製できるようにしても良いかどうかは、判例がないので法的にはグレーな部分が残ります。

  同じ「貸したものをコピーさせる」という行為であっても、レンタルCDは法律上問題とはなりません。まず、「貸す」という行為について、著作権法の「貸与権」に基づき、レンタル事業者が著作権団体に著作権料を支払っています。また、個人の段階でも「私的複製」であることに加え、自宅でコピーに使うデジタル複製機器には「録音補償金」という著作権料の一種が販売時に上乗せされています。劣化しないデジタルコピーを作れる機器が出回るようになったことを受け、音楽や映像の私的複製についても著作権者に一定の機会損失の補填をする目的で創設された制度に基づくものです。

  最近の主力の携帯用オーディオ機器、パソコンなどの政令対象機器でないものには補償金は上乗せされていないのですが、消費者がこれらの機器で自宅で個人使用目的で複製することは合法です。

  文化庁も「コピーガードを外したり、レンタル店の約款に自宅でのコピーを禁じる条項が入っていたりしない限りは違法とはならない」(著作権課)との見解です。


本の裁断だけ業者が行い、スキャナーはレンタルして電子化部分は利用者本人にやってもらうサービス

  自炊関連では他にも、本の裁断だけ業者が行い、スキャナーはレンタルして電子化部分は利用者本人にやってもらうサービスなども登場しています。法的に問題となる「複製」行為を業者が行うことを避けるのが目的です。

将来は、本を断裁しなくても自宅で簡単に蔵書を電子化できる機器の販売が盛んになるでしょう。機器を売るだけなら現行制度上は合法だからです。

著作権者と合意を取り付けることで、自炊代行を合法化する動きも

  法の隙間を見つけて新たなビジネスを展開する動きがある一方、著作権者と合意を取り付けることで、自炊代行を合法化する動きも出てきました。

 著作権者の団体が中心になって2013年3月26日に立ち上げた蔵書電子化事業連絡協議会(Myブック変換協議会)。この協議会では、
(1) 元の書籍を破棄する
(2) 電子化したファイルにIDや透かしを入れて海賊版として流布した際に出元が分かるようにする
など、著作権者に配慮する条件を受け入れる代行業者に対して、作家や出版社からの賛同を募るものです。賛同した作家の著作物については許諾を得たことになり、合法的に自炊代行できる仕組みです。

 訴訟で決着させたり、法改正をしたりして合法違法の線引きをしても、時間ばかりかかって権利者と業者や利用者の間の溝が深まるだけであり、関係者の合意に基づく仕組みづくりの方が柔軟で建設的という考えに基づくようです。