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2015年2月7日土曜日

不正競争防止法:企業の不正利益、没収へ 秘密盗用で改正案

 政府は企業が他社の秘密を盗んで不正に得た利益について、国が没収する制度を新たにつくる方針である。不正競争防止法の改正案に盛り込み、いまの通常国会に出す。犯罪で得た利益が企業に残らないようにし、産業スパイの「やり得」を防ぐ。

 改正案では、他社の技術や製造のノウハウを盗用した場合、これまで法人に適用していた罰金の上限(3億円)を引き上げるほか、不正な利益そのものも没収できるようになる。海外だと米国で同様の規定がある。最近では米デュポン社の技術を盗んだ中国企業に対し約30億円の違法収益を取り上げる判決が出た。

 今後は日本でも、刑事訴訟でまず検察が不正利益を推定して没収額を求めることになる。裁判でその金額が妥当かどうかを判断し、国に納める金額を決める。

 たとえば東芝は、韓国の半導体大手SKハイニックスに技術を不正利用された。昨年の民事訴訟での和解で約330億円をSK側が東芝に支払うことになった。今回の法改正後に同様の事件が起きれば、刑事訴訟でも数十億円から数百億円の規模で不正利益を没収する可能性がある。

2015年1月18日日曜日

休眠会のみなし解散


 
2014年12月24日までに、登記していても経営実体のない休眠会社の整理を進める法務省は、これまで5~12年おきだった職権による「みなし解散」を来年度以降は毎年実施する方針を固めました。登記の電子化で実態を把握しやすくなったことがきっかけで、休眠会社が犯罪に悪用されるのを防ぐ狙いもあります。

 みなし解散は、役員変更などの登記が一定期間以上行われない休眠会社を、法務省の判断で解散させる制度です。

 法務省の大臣が対象会社を官報で公告した後、2カ月以内に役員などの登記をするか、法務局に「事業を廃止していない」と届け出ないと解散とみなされます。

 法務省は1974~2002年、一部の例外を除きおおむね5年に1回、みなし解散の手続きを取りました。

 整理作業は2014年11月に始まりました。

  役員の任期を延長した2006年の会社法施行で、休眠会社の定義が「最後の登記から5年経過」から「12年経過」に変更されたため、上川陽子法相は2014年11月、12年ぶりに公告しました。法務省の調査によれば、法人登記はされているものの、実際には企業活動をしていない休眠会社が国内に約8万8000社あります。会社法に基づき、株式会社約177万社から登記情報が12年以上更新されていない企業約8万8000社を洗い出し、解散手続きに入る旨を通知しました。

 法務省民事局によると、通知したうち「宛先不明」として返送されたのは約6万社で、大半がみなし解散となる可能性が高いです。2002年には約11万社の休眠会社を確認し、うち約8万社がみなし解散となりました。

 かつては法務局の職員が膨大な登記資料を手作業で精査していたため「事務量や予算規模を考えると数年おきが限界」(民事局)でしたが、2008年に登記のオンライン化が完了し休眠会社の抽出が容易になりました。

 休眠会社の分割や転売は新たに会社を設立するよりも低コストで、審査が甘いなどの問題もあり、詐欺や脱税など経済事件の温床になっているとの指摘が出ています。


 法務省は、2015年1月19日までに事業継続の届け出を受け付けます。2015年1月19日までに、廃業していないことを示す届け出書の提出か、役員などの登記情報の更新が行われない限り「みなし解散」の登記を行います。みなし解散後、3年たつと解散が確定します。


 整理作業は2002年以来ですが、来年度以降は毎年作業を行う予定です。


休眠会社・休眠一般法人の整理作業の実施について(法務省)

    まだ事業を廃止していない休眠会社又は休眠一般法人は,平成27年1月19日(月)までに「まだ事業を廃止していない」旨の届出をする必要があります。


休眠会社を毎年整理へ 法務省、15年度から

    日本経済新聞 電子版(2014年12月24日)

 

2015年1月3日土曜日

肖像権・パブリシティ権 有名人の画像の無断利用はNG

 ウェブサイトなどで有名人の氏名・肖像を無断で利用すると,「パブリシティ権」の侵害になる。

パブリシティ権とは


 ホームページやWebコンテンツなどで,俳優やタレント,スポーツ選手などの有名人の氏名や肖像 (人物の顔や姿などを描いた絵や映像,写真,彫刻)を無断で利用すると,「パブリシティ権」の侵害になる。

 パブリシティ権とは,顧客を引きつける力を持つ有名人の氏名・肖像を,有名人自身が営業的に利用できる独占的な権利のことである。氏名に関する権利を「氏名権」,肖像に関する権利を「肖像権」と呼ぶこ ともある。

 パブリシティ権を侵害すると,損害賠償請求や差し止め請求を受ける可能性がある。


馬のパブリシティ権




 実在する競走馬の名前を使う競馬シミュレーション・ゲーム「ギャロップレーサー」を開発・販売しているテクモに対し,競争馬の名前を無断で利用された馬主らが,ゲームソフトの制作,販売,貸し出しなどの差し止めと損害賠償を求めて,1998年に名古屋地方裁判所に訴訟を起こした。「競走馬の名前が持つ顧客吸引力などの経済的価値を馬主が独占的に支配する財産的権利(パブリシティ権)をテクモが侵害している」というのが,馬主側の主張だった。

 名古屋地方裁判所は,有名な競走馬の名前に関しては馬主たちにパブリシティ権があると判断してテクモに損害賠償を命令。これを不服としたテクモは控訴したが,名古屋高等裁判所も2001年に同様な判決を下した。

 裁判で「パブリシティ権は人については認められるが,物については認めるべきではない」と主張していたテクモは,ただちに最高裁判所に上告した。最高裁は,

(1)馬主による競走馬の所有権は,物としての馬の排他的支配権にとどまり,名前などの無体物を排他的に支配する権限までは含まない。このため,顧客吸引力などの経済的価値を持つ競走馬の名前を第三者が利用したとしても,その行為は競走馬の所有権を侵害するものではない

(2)物の名前など無体物の利用に関しては,特許法や著作権法,不正競争防止法などの知的財産権法が,排他的な使用権の及ぶ範囲・限界を明確にしている

(3)競走馬の名前の使用権については法的な根拠がないため,馬主に排他的な使用権を認めることは適当ではなく,不法行為法(民法)に基づく救済も現時点では認められない

と判断。テクモの主張を認めて,控訴審(名古屋高等裁判所)の判決を破棄し,馬主らの請求を棄却した。(最高裁判所2004年2月13日判決,判例時報1863号25頁)

2015年1月2日金曜日

プロバイダ責任制限法 著作権関係ガイドライン

 著作権関係ガイドラインは、特定電気通信(法2条1号) による著作権及び著作隣接権(「著作権等」)を侵害する情報の流通に関し て、プロバイダ等が責任を負わない場合を定めるプロバイダ責任制限法3条の趣旨を踏 まえ、情報発信者、著作権者等、プロバイダ等のそれぞれが置かれた立場等を考慮しつ つ、著作権者等及びプロバイダ等の行動基準を明確化するものである。

 これにより、関係者の予見可能性を高め、特定電気通信による著作権等を侵害する情報の流通に対する プロバイダ等による迅速かつ適切な対応を促進し、もってインターネットの円滑かつ健 全な利用を促進することを目的とするものである。

著作権関係のガイドラインの目的


特定電気通信を侵害する情報の流通に関して、プロバイダ等が責任を負わない場合を定めるプロバイダ責任制限法3条の趣旨を踏まえ、情報発信者、著作権者等プロバイダ等のそれぞれが置かれた立場等を考慮しつつ、著作権者等及びプロバイダ等の行動基準を明確化するものである。これにより、関係者の予見可能性を高め、特定電気通信による著作権等を侵害する情報の流通に対するプロバイダ等による迅速かつ適切な対応を促進し、もってインターネットの円滑かつ適切な対応を促進し、もってインターネットの円滑かつ健全な利用を促進することを目的とするものである。
プロバイダ等が発信者に連絡をして7日間経っても反論がない場合(法3条2項2号)でなくとも、速やかに削除等の送信防止措置を講ずることが可能な場合を現段階で可能な範囲で明らかにする。

ガイドラインの位置付け


 本ガイドラインは、プロバイダ等が責任を負わずにできると考えられる対応を可能な範囲で明らかにしたものであってプロバイダ等の義務を定めたものではない。

 その情報の流通によって本当に権利侵害があったか否か、さらに、情報を誤って削除 し、又は放置したことによってプロバイダ等が責任を負うか否かは、最終的には裁判所 によって決定されるものである。したがって、個々の事案において、作成されたガイド ラインに即した対応が行われたとしても、それのみで裁判所によっても法3条の「相当の理由」があると判断されるものではなく、ガイドラインの内容及びその作成手続にその信頼性を担保する根拠があり、著作権者等及びプロバイダ等が当該信頼性の高いガイ ドラインに従って適切に対応している場合において、はじめて裁判所によっても法3条 の「相当の理由」があると判断され、プロバイダ等が責任を負わないとされるものと期 待される。

 なお、ガイドラインに定めがなく、又はガイドラインの定める要件を満たさない場合であっても、プロバイダ責任制限法3条の「相当の理由」に核当する場合もありうるものである。


ガイドラインの適用範囲


申出の主体

送信防止措置の申し出をする者は、著作権等を侵害されたとする者本人及び弁護士等の代理人とする。

対象とする著作権等侵害の範囲

特定電気通信による情報の流通により著作権等が侵害される場合を対象とする。

対象とする著作物等の範囲

著作権等が侵害されている著作物、実演、レコード、放送及び有線放送及び侵害されている可能性がある著作物等を対象とする。

対象とする権利侵害の態様

(1)    著作権等侵害であることが容易に判断できる態様
著作権等侵害であることを自認しているもの
全部又は一部を丸写ししたファイル
標準的な圧縮方式により圧縮したもの
(2)    一定の技術を利用すること、個別に視聴等して著作物等と比較すること等の手間をかけることにより、著作権侵害であることが判断できる態様


参考

2015年1月1日木曜日

電子掲示板や投稿サイトの運営・管理者の法的義務とプロバイダ責任制限法 


制定の背景


 掲示板に他人の権利を侵害する書き込みがあるにもかかわらずこれを放置した場合,掲示板運営者は、損害賠償請求を受けることがある。

 インターネット上でサービスを提供する事業者は,(1)自らがコンテンツを提供する「コンテンツ・プロバイダ」と,(2)自分は情報を発信せず,情報発信者と受信者を媒介する「アクセス・プロバイダ」に分類できる。電子掲示板の運営者は一般に,(2)のアクセス・プロバイダに当たる。

 コンテンツ・プロバイダが,違法な情報や他人の権利を侵害する情報の発信について責任を負うのは当然である。ここで言う他人の権利には,以下のものがある。

  • 名誉権
  • プライバシー
  • 氏名権、肖像権
  • パブリシティ権
  • 著作権
  • 商標権
  • 意匠権
  • 営業秘密
  • 特許権

 しかし,アクセス・プロバイダは情報発信者ではない。このため,情報の内容までは法的責任を負わないのが原則である。この原則は,ニフティサーブ事件判決でも確認されている(東京高等裁判所2001年9月5日判決,判例タイムズ1088号94頁)。  

 ニフティサーブ事件は,掲示板で誹謗中傷を受けた女性が書き込みを行った大学講師を名誉毀損で訴えたもので,裁判所は大学講師に対しては損害賠償を命じたが,掲示板の運営者であるニフティには損害賠償義務はないと判断した。   

 とはいえ,掲示板に他人の権利を侵害する書き込みがあることを知りながら,運営者であるアクセス・プロバイダが削除せずに放置すると,「故意または過失により他人の権利を侵害した」として民法上の「不法行為責任」を負うことになる(動物病院事件(東京地方裁判所2002年6月26日判決,判例タイムズ1110号92頁))。

 一方で,不法行為責任を負うのを避けるために,アクセス・プロバイダが安易に書き込みを削除すると,今度は「表現の自由を侵害した」,「サービス契約に違反した」といった理由で,発言者側から訴えられる恐れがある。いわば、アクセス・プロバイダは、板挟み状態になる。

 このように、インターネット上の情報流通によって他人の権利が侵害されたとされる場合には、情報発信者、権利者、特定電気通信役務提供者(サーバの管理・運営者や電子掲示板の管理・運営者等(「プロバイダ等」))の三者の利害関係が絡むため、時として、その情報流通に対するプロバイダ等の対応には困難な場合がある。

 このような中で、平成13年11月にプロバイダ等の民事上の責任を制限する規定を有する特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号。以下、「プロバイダ責任制限法」又は単に「法」という。)が成立した。

法律の趣旨


この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定めるものとする。

・①損害賠償責任の制限、②発信者情報の開示、の2点を規定
・特定個人の民事上の権利侵害があった場合を対象

法律の対象


特定電気通信

不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)

・インターネットでのウェブページや電子掲示板などの不特定の者により受信されるものが対象
・ただし、放送に当たるものは、放送法等での規律があるため、対象外


特定電気通信役務提供者


特定電気通信設備(特定電気通信の用に供される電気通信設備)を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者

・プロバイダ、サーバの管理・運営者等が対象
・典型的には電気通信事業者に当たるプロバイダが対象になるが、営利の者に限定していないため、電気通信事業者以外の者も対象となる


 法律では,アクセス・プロバイダのことを「特定電気通信役務提供者」と呼んでいるが,その範囲は広い。企業か個人かは問わないし,営利事業ではなく非営利で掲示板を運営している場合も,特定電気通信役務提供者とみなされる。

削除の条件


 プロバイダー責任制限法は,被害者から削除要求があったことを発言者に通知し,7日以内に発言者が異議を唱えなければ,プロバイダが書き込みを削除しても発言者に対して一切の責任を負う必要はない,と定めている。これにより,他人の権利を侵害する書き込みを削除しやすくなった。

 また,被害者に対して損害賠償などの責任を負う条件も,「書き込みが権利を侵害していることを知ることができ,かつ削除が技術的に可能であるのに削除しなかった場合に限られる」と,明確に規定した(第3条)。

発言者情報開示の条件


 掲示板の書き込みは通常,匿名で行われることが多い。このため,権利を侵害された被害者が発信者に対して損害賠償を請求する際には,発信者の住所・氏名をプロバイダに開示してもらう必要がある。

 しかしプロバイダが発言者情報を開示すると,発信者の側からプライバシや「表現の自由」,「通信の秘密」を侵害したと抗議され,場合によっては法的責任を追及されることも起きてしまう。

 そこで,プロバイダー責任制限法は,プロバイダが発言者情報を開示する条件も明確にした。書き込みによって権利を侵害されたことが明らかであり,発言者情報の開示を受ける正当な理由があるときに限り,被害者が発信者情報の開示を請求できる,としたのである。ただし,プロバイダが判断に迷って開示を拒否したとしても,重大な過失がない限り,損害賠償の責任を負わないと定めている(第4条)。

 プロバイダー責任制限法により,書き込みの削除や発言者情報の開示に関する条件はある程度明確になった。しかし,実際問題として名誉権侵害などの権利侵害の有無の判断は難しいことも多い。


常に免責されるわけではない


 基本的には違法コンテンツであるとの申し出があり,プロバイダ等がそれに従って削除すれば,著作権者側からの損害賠償責任を免れることが可能な場合が多い,と考えられる。ただし,全く問題がないわけではない。

 この点参考となるのが,「ファイルローグ事件判決」である。ファイルローグ事件は,P2P(ピアツーピア)技術を利用した音楽ファイル交換サービスを提供していた会社に対して,著作権侵害が問われた事件である。この事件の場合,ユーザー同士はファイルをやり取りするためにP2P技術を利用しており,サービス提供会社が音楽情報ファイルを直接送信していたわけではない。したがって,形式的にみれば,サービス提供会社は公衆送信などを行った主体(当事者)とは言えない。

 しかし、同判決は,サービスで交換されていたファイルの大部分が市販CDなどを複製したものであることなどを理由に,サービス提供会社も著作権等の侵害主体になると判断した。P2Pのサービス提供会社が著作権侵害主体となり得るのであれば,プロバイダ責任制限法の適用がありそうにも思える。しかし,結論としてはプロバイダ責任制限法による免責は受けられない,と判断した。

 プロバイダ責任制限法には免責されない例外的な場合がある(3条1項)。サービス提供者自身が権利侵害情報(違法コンテンツ)の「発信者」となる場合には免責が受けられない,と定めている

 動画/画像の共有配信サービスで考えれば,通常は動画を配信サーバーに投稿するユーザーが典型的な「発信者」である。

 ところが,ファイルローグ事件では,運営会社自身も違法複製ファイルを流通過程におくことに積極的にかかわっており「発信者」に該当する,したがって、プロバイダ責任制限法の適用対象外であると判断した。

 ファイルローグの事案は,P2Pのファイル交換システムが対象となっているので,動画共有配信事業とは事案は異なる。しかし、P2Pファイル交換システムの提供者は動画共有配信事業者よりもコンテンツのコントロール,管理の度合いが間接的であるにもかかわらず,著作権侵害の主体であると判断されている。したがって、より管理が容易であると思われる動画共有配信事業者の方が「侵害主体」であると判断される可能性は高いと言える

 動画共有配信事業者がプロバイダ責任制限法の「発信者」であるかどうかを判断する枠組みは,P2Pであるかどうかとは直接の関係はない。あくまでも,「実態」がどうなっているのかが重視される。

 したがって、サービス実態(違法なコンテンツがほとんどの場合等)によっては,動画共有配信事業者がプロバイダ責任制限法の適用を受けられないで「違法である」と判断される余地は残る。

参考