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2013年10月16日水曜日

死後のデジタル資産の扱い、ネット上の通信の秘密

GmailやFacebookなどで、自分のプライベートなデータをネット企業に預けている人は多いでしょう。セキュリティに注意していれば、中身が外に漏れることはありません。しかし、本人が死んでしまったら、そのデータはどうなるのでしょうか。

故人のメールを見るニーズ

身内が亡くなると、以下の理由で故人のメールを見るニーズが発生することがあります。
  • 葬儀の通知を出したいが、故人の交友関係を知らない。
  • 家業を継ぐが、亡父が取引先とどのような話をしていたのかわからない。
  • 息子(娘) が自殺した原因を知りたい。 
  • 過労死であることを証明するため、過労死した故人のメールを確認したい。
とくに最近ではネット証券やネット銀行などの金銭絡みのアカウントもあるので注意が必要です。もしもデータを残していないと、あなたの貴重な財産が遺族が気づかないままほったらかしにされる事態になりかねないからです。 

端末内に有るデータは簡単に見ることはできますが、クラウド上にあるデータは厄介です。 Gmailを初めとするWEBメールは同じような問題を孕んでいます。

デジタルの世界の権利関係

日本では運営事業者と遺族との間で裁判所で争われたことが公表ベースではありません。そもそもデジタルの世界にはどのような権利が存在しているのでしょうか。

通信の秘匿、個人情報保護、著作権、デジタル財産権などいくつかの権利があります。

メールやメッセージのやり取りは通信の秘匿にあたります。

SNSでの書き込みや写真、イラストなどは著作権が関わってきます。

電気通信事業法の「通信の秘密」

通信の秘密は日本国民に認められた権利であり、憲法や電気通信事業法で保障されています。政府はもちろん、インターネットサービスプロバイダなどの電気通信事業者、さらに一般人も人の電子メールを勝手に見てはいけないことになっています。

犯罪捜査で捜査機関がプロバイダに情報開示を迫ることはあるものの、それも無制限ではありません。プロバイダが警察から捜査関係事項照会を受けて、ユーザーの名前や住所などの登録情報を本人の同意なく提供するケースはあります。ただ、メールの中身を明かすとなると、ハードルが一気に上がります。電気通信事業法に抵触する恐れがあるので、令状なしでは無理です。

個人情報保護法は、「個人情報」を生存する個人に関する情報に限っているため、死者に関する情報は保護の対象ではありません。しかし、電気通信事業法の「通信の秘密」の保護対象は、一般に生きている者に限定されていないと解釈されています。犯罪にかかわったなどの特殊なケースを除き、プロバイダが本人の許可なく第三者に明かすことはないと考えて良いでしょう。

 一方、遺族の側から見ると、この状況は厄介です。身内が亡くなると、故人のメールを見るニーズが発生することがありますが、通信の秘密の高い壁が立ちふさがるのです。


デジタル資産

では、電子データを「デジタル資産」などと呼ぶことがありますが、メールのデータを資産だと解釈し、遺族が「相続」することはできないのでしょうか。


データに資産的価値がある芸術的な写真や文章が含まれていれば、相続財産だという解釈も可能かもしれません。でも、事務的なメールだと、そのような解釈は難しいでしょう。メールアカウントは一身専属性が強く、相続財産とみなすのは難しいでしょう。

これは、『一身専属権』の考えがあるからです。

一身専属権とは、ある人の一身に専属し、他人が取得または行使することのできない権利のことです。個別の人だけに帰属するもので、特殊な技能的な技術を相続、譲渡はできないことを指します。医師免許や弁護士免許などがそれにあたります。  


運営者の実務上の取扱い

では、もし遺族がプロバイダに情報開示を要求したらどうなるのでしょうか。


一身専属権という考えに基づいて、サイト「BIGLOBE」(NECビッグローブが運営)の会員規約では第8条(権利の譲渡等)の中で、「会員が死亡した場合は、BIGLOBEサービスを受ける権利を相続人が承継することはできません」と明記しているようです。


Gmailの場合、故人の正式な代理人としてアカウントへアクセスしたい場合の手続きは、HPに掲載されています。

まず、身分証明書、死亡診断書、故人のGmailアドレスから受信したメッセージのヘッダーと全文などの証明書類を提出します。審査をパスすれば、米国の裁判所命令や追加書類の提出など、さらなる法的手続きへと進みます。

Gmailの場合は、他のユーザーがあなたに代わってメールを閲覧、送信、削除できるように、Gmail へのアクセス権を他のユーザーに委任することができるそうです。
https://support.google.com/mail/answer/138350?hl=ja


Google以外では、事業者によって対応は異なり、それぞれのホームページなどにユーザーが亡くなった場合の対処法が掲載されています。たとえば Facebookでは、ユーザーが亡くなると遺族のリクエストによってアカウントが追悼アカウントとなり、メモリアルページに変更することができます。も はやログインはできなくなり、選ばれた人のみがメッセージを残せるようになるのです。

一方、Yahoo!などのようにユーザーが亡くなっても、遺族を含めたいっさいのアクセスを認めない厳格な事業者もあります。

ただ、会員が亡くなることを想定して、アカウントやパスワードの取り扱いについて明確な基準を定めているITサービス事業者は一部にとどまります。一般的には、ケースバイケースで判断されるようです。ほとんどのサービスはユーザーの死を想定すらしていないのです。

あらかじめ利用規約で手当てしておくことが理想的ですが、通信の秘密や相続といったデリケートな問題が絡むだけに、いまの段階ではルール化しづらいのでしょう。誰にどこまでデータを引き継ぐかユーザー自身に生前登録させるなど、柔軟な仕組みづくりが求められます。


もしあなたがもしものときに備えてメールアカウントの後始末を遺族に託したいなら、IDやパスワードなどの必要なデータやアカウントの扱いに関する希望などをなんらかの形で残しておくべきでしょう。たとえば遺書やエンディングノートなどにそれらのデータが書かれていれば、遺族は容易にアカウントにアクセスしてデータを取り出したり、削除することができるでしょう。