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2013年10月19日土曜日

インターネット上の名誉毀損

 1. ネット上に事実無根の自分の悪評が書かれた場合

インターネット上の誹謗中傷は依然として続いています。決して他人事ではありません。

このところ、有名人のブログや掲示板に誹謗中傷や脅 迫的な書き込みを行って検挙されるケースが見られます。根も葉もないウワサを真に受けた人たちが集団的に攻撃的な書き込みを行い、いわゆる「炎上」に至ら せるケースも多くなっています。

従来は「2ちゃんねる」のような悪口サイトが中心でしたが、最近は、就職や結婚などのクチコミサイトやツイッターなどにも書き込まれることがあります。そのなかには過激で悪質なものも含まれており、被害者は思わぬダメージを受けてしまいます。

こうした名誉毀損や脅迫行為は、民事的には不法行為(民法709条)、刑事的には名誉毀損罪(刑法230条)や脅迫罪(刑法222条)に該当する可能性があります。

被害を受けたときの対応としては、民事的には、ブログや掲示板の管理者やホスティング業者に対して記事の削除を求めるとともに、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求によって発信者を特定して、損害賠償などの請求を行うという方法が考えられます。

 この場合、掲示板管理者などの下にはIPログ情報しかないのが通常ですから、その開示を受けたうえで、WHOIS検索(IPログの接続情報を調べるサービ ス)によって判明するISP(インターネットサービスプロバイダ)事業者に対して、第二段階の開示請求を行うことになります。

ISP事業者の下には、問題の投稿の日時に当該IPアドレスを付与した契約者に関する情報があるので、これによって投稿者を特定することができます。その 際、ISP事業者がIPログ情報を保存する期間は、短いところでは2カ月程度しか保存されないとも言われていますので、迅速に対処する必要があるでしょ う。

情報の流通による権利侵害が明白と事業者側が判断できない場合には裁判によることになりますが、第一段階の掲示板管理者などに対する場面では裁判所も開示の仮処分を認める傾向にありますので、短期間に最終のISP事業者の下までたどり着けることが多いと言えます。

削除請求を内容証明郵便で送付

被害に遭ったら、まずサイト管理者(コンテンツプロバイダ)に削除を求めましょう。その場合は、メールや問い合わせフォーマットを使っても構いませんが、被害個所を特定して「ここは不当なので削除せよ」と内容証明を送るのが無難です。これで大方は消してもらえ、解決に至ります。

やっかいなのは、削除を拒否された場合です。また、再び中傷を書き込まれたときに備えて、発信者が誰なのかを知っておきたいということもあるはずです。しかし、サイト管理者は表現の自由や個人情報保護を盾に「消さない」とか「情報は出せない」といってくることもあります。


プロバイダ責任制限法に基づいた仮処分申請

サイト管理者が、表現の自由や個人情報保護を根拠に、「消さない」とか「情報は出せない」といってくるときは、2002年に施行されたプロバイダ責任制限法に基づいた仮処分申請を行います。この法律は、被害者救済を重視しています。

リスクを避けたいと考えるサイト管理者は、違法情報であればおおむね削除しますし、持っているIPアドレスとタイムスタンプ(発信日時)を出してくることも多くなりました。

 この2つが入手できれば、サイトへの投稿を媒介する接続業者(アクセスプロバイダ)を特定し、発信者(契約者)を突き止める手がかりが得られたことになります。書き込みが消され、発信者につながる情報を得ることができれば、そこで矛を収めるという選択肢もありえます。

損害賠償請求訴訟

さらに、発信者に謝罪ないしは何らかの賠償をさせたい場合、IPアドレスからネット検索などで特定した接続業者に対して「発信者の氏名・住所の開示」を請求する訴訟を起こすことになります。

その際、訴える側に有利に働くのが、2010年4月8日に最高裁が出した判決です。これは、ネット上で名誉毀損などに当たる書き込みがなされた場合、接続業者に発信者情報を開示する義務があるとしたものです。実際に熾烈な争いになることはまずなく、数回程度の口頭弁論で終わることも多いです。 こうして、発信者本人が判明すれば、今度は発信者、すなわち加害者を名誉毀損で民事訴訟に持ち込めば好いでしょう。

ただし、示談になることもよくあります。「2度とやらない」という旨の念書を取り、慰謝料を受け取ります。

しかし、示談での慰謝料は高額を期待できないことも多く、判決になれば弁護士費用は損害額の1割程度しか認められません。裁判に1、2年近くかかることもあり、その間のコストを考えれば経済的合理性を欠くことになってしまいます。


悪質で被害が重い場合は警察に「被害届」を出す 

 「2ちゃんねる」などの一部の掲示板では、民事裁判手続きを事実上無視しているため、発信者情報を遡ることが困難になっています。

 被害が重い場合などは、刑事事件に発展する可能性も高くなりますので、警察への被害届提出や告訴を検討することになるでしょう。 この点、「2ちゃんねる」などでは民事裁判手続きが無視されるために、一般的に刑事手続きによらなければならない現状があり、刑事法の謙抑性に照らすと憂慮される状況となっています。

また、刑法に定める名誉毀損罪で告訴を試みても、警察や検察での立件が難しい面があります。

さらに、①内容に公共性がある、②目的に公共性がある、③内容が真実と証明できる、の3点を満たせば罪に問えません。特に③の真実についての論点が重要になりますが、ネット上の言論の真実性については事案に応じて裁判所の個別判断になります。

ま た、IPアドレスなどのアクセスログ(利用履歴)の保存期間は法律で定められていません。そのため、大手プロバイダでも3カ月~半年ぐらいしか保存しない ことが多いのです。しかも最近の傾向として、どんどん短くなってきています。削除だけでなく、発信者を探り出すには、早めに動き出すことが大切です。


2. クチコミサイトでお店の悪口を書かれたら

飲食店やホテルを選ぶときに役立つ口コミサイト。実際に足を運んだユーザーが書き込むリアルな評価が人気の秘密です。しかし一方で、悪口を書き込んで店とトラブルになることもあるようです。

真っ先に思い浮かぶのは民事における損害賠償請求ですね。また、名誉毀損は犯罪行為でもあります。3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金という刑事罰に処されるおそれがあるのです(刑法230条)。

たとえばラーメン店がカルト集団と一体であるかのような書き込みをした男性が名誉毀損罪に問われた裁判では、2010年3月、最高裁が被告側の上告を棄却。罰金30万円の有罪判決が確定しました。

どのような書き込みをしたら罪に問われるのでしょうか。

意見の表明なら、名誉毀損罪にあたりません。

名誉毀損罪は、事実の摘示が要件の一つ。たとえば『店にゴキブリがいた』という事実を書いてはじめて名誉毀損罪に問われる可能性が生じます。単に『おいしくない、汚い、接客が気に入らない』と感想を書くだけなら表現の自由です。

しかし、単に感想を述べるだけでは説得力に欠けてつまらないでしょうから、自分の意見を裏づけるために、客観的事実を書くケースもあるでしょう。

この場合は、事実が真実であるかどうかが分かれ目になります。ウソをついたら、名誉を傷つけたとして名誉毀損罪になりえます。

また、虚偽の情報でお店の経済的評価を貶めたり、営業に支障をきたせば、信用毀損罪・業務妨害罪に処されます(刑法233条)。信用毀損罪・業務妨害罪の法定刑は、名誉毀損罪と同じです。どちらにしてもウソはご法度です。

では、真実なら何を書いてもいいのでしょうか。

そうではありません。名誉毀損罪は、公共の利害にかかわる事実で、目的が公益を図ることだった場合、それが真実なら罰しないことになっています(刑法230条の2)。逆に言えば、内容に公共性がなかったり、目的に公益性がなければ、本当のことを書いても名誉毀損罪が成立します。

個人のプライバシーを暴くような書き込みは公共性がないためにアウトです。

ただし、通常のグルメ批評であれば、刑事事件として立件される可能性はほとんど考えられないでしょう。一般的に飲食店は公衆を相手に商売しているので、料理やサービスに関するレビューは利害公共性があると考えられます。また目的公益性に関しても、個人的な嫌がらせや復讐心であることを証明するのは現実的には難しい場合もあるでしょう。


 なお、民事での損害賠償も同じ枠組みです。店に損害が発生しても、内容が真実で公共性があり、目的に公益性があれば、賠償請求は認められません。

3. 犯罪にあたる書き込み
 
 ネット上の書き込みや投稿を巡っては民間団体「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」が、薬物広告や児童ポルノといった存在自体が違法の「違法情報」などを中心に民間からの通報を受理しています。