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2013年11月1日金曜日

産業医面談

産業医とは

産業医とは、事業者との契約に基づき、企業内等で労働者の健康管理を行う医師のこと。労働安全衛生法は、常時50人以上の労働者を使用する事業場には産業医を置くことを義務づけています。

事業者は、労働契約上、業務による過度の疲労や心理的負荷によって労働者の心身の健康を損なわないよう注意する健康配慮義務を負っています。産業医の役割は、事業者がこの義務を果たすことができるよう事業者を補助することにあります。そのため、産業医は治療等の医療行為は基本的に行わず、労働者の健康診断や面接、職場巡視を実施して労働者の健康状態を把握し、事業者に意見を述べることを主な職務としています。

 したがって、産業医が労働者から職場でのパワハラやセクハラ、過重労働による心身の不調について相談を受けた場合には、これらの健康管理情報は配属先の上司などへの報告の対象となり得ます。事業者は、医師の意見を参考にしながら、労働者との面接指導を実施し、必要に応じて、労働者の就業場所や作業内容の変更、労働時間の短縮、休業命令、復職命令等の措置を決定します。


 同意なしに報告される

それでは、産業医に相談した内容はすべて報告されてしまうのでしょうか。

産業医も、一般の医師と同様に守秘義務を負います。秘密漏示罪を定める刑法134条は、医師が正当な理由なく業務上知りえた他人の秘密を漏らした場合には6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金に処すとしており、これは産業医にも適用されます。

また労働安全衛生法も、産業医が健康診断等の実施によって知りえた労働者の秘密を漏らすことを禁じています。

したがって、産業医であっても、労働者の同意がない限り、労働者の健康管理情報を上司に伝えてはならないのが原則です。

他方で産業医は、労働者に健康上の問題があることを知ったときには、事業者にこれを指摘・報告する義務も負っています。また状況によっては事業者に積極的な情報提示を行って、自覚を促すべき場合もあります。

この点について厚生労働省は、可能な限り本人の同意を得ることを基本としながらも、(1)同意を得ることが困難であり、開示することが労働者に明らかに有益である場合、(2)開示しないと公共の利益を著しく損なうことが明らかな場合等には、労働者の同意がなくてもその健康管理情報を上司その他の関係者に報告することができるとの意見をまとめています。

たとえば、(1)労働者が自傷行為に及ぶ可能性が高い場合や、(2)健康診断の結果、伝染病が発覚し、直ちに対応しなければ他の労働者に健康被害が生じる危険がある場合などです。

また労働者の同意の有無にかかわらず、報告が許される情報の内容やその報告先は、事業者が健康配慮措置を講じるために必要となる最小限の範囲にとどまります。たとえば、労働者の血液検査結果の詳細な数値や疾病の具体的診断名、セクハラ、パワハラの具体的な当事者名等の情報は必ずしも健康配慮措置のために必要ではありません。

産業医は労働者に対して守秘義務を負う以上、上司らに報告する必要性があると判断したとしても、まずは労働者にその旨を説明し、同意を得るべきです。それができない事情があったとしても、可能な限り相談者が特定されることのないようにする等の配慮が必要です。

労働者としては、産業医の役割と立場を理解し、産業医の診察、面接を受けた際には、上司らに報告される内容について事前に産業医に確認し、報告してほしくない相手と内容についてはその旨を明確に伝えておくことが大切になります。