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2013年11月14日木曜日

日本音楽著作権協会(JASRAC)の著作権使用料に関する契約方法を巡る訴訟

 今回は、日本音楽著作権協会(JASRAC)の著作権使用料に関する契約方法を巡る訴訟について書きたいと思います。 テレビやラジオで放送される音楽の著作権使用料を巡り、独占禁止法違反(私的独占)で排除措置命令を受けた日本音楽著作権協会(JASRAC)の審判・訴訟です。

    放送局は放送事業収入の1.5%を払えば、JASRACの管理する楽曲を自由に使える「包括的利用許諾契約」を締結することができます。 公取委は2009年にいったんは独禁法違反を認めてJASRACに排除措置命令を出したが、JASRACの不服申し立てを受けて2012年には一転して命令を取り消す審決をしました。  

 東京高裁判決(飯村敏明裁判長)は、JASRACがテレビ局やラジオ局と結ぶ包括契約が「他の事業者を排除する効果がある」と認定し、独占禁止法に違反しないとした昨年の公正取引委員会の審決を取り消しました。


<争点>  

テレビ番組などで使われる楽曲の著作権管理事業を巡り、日本音楽著作権協会(JASRAC)の契約方法が同業他社の新規参入を妨げているか。


  問題となったのは、JASRACがテレビ局やラジオ局と結んでいる包括契約。JASRACに放送事業収入の1.5%を支払えば、290万曲近い管理楽曲を自由に使えるので、局側にとっては割安で便利な方法です。

 一方、新規参入したイーライセンス(東京・渋谷)の契約は、管理する約5300曲の利用に応じて個別に使用料を受ける形です。同社の楽曲を使うと余分な支払いが生じるため、結果的にJASRACの楽曲しか使われない状態になっている、と訴えました。

  他の管理業者には著作権料を別途払う必要があり、経費節約のため一部の放送局が意図的にJASRAC以外の利用を控えていたということです。  


<背景>

 包括契約はもともとJASRACが音楽著作権をすべて管理していたことから生まれました。どんぶり勘定のほうが放送局にも管理団体にも都合がよかったからです。

  ところが演歌からポップスなどへと嗜好が移る中、著作権料の分配方法に疑問の声が上がるようになりました。12年前の法改正で管理業務への新規参入が認められたのはそのためだったのですが、包括制度によりJASRACの独占状態は変わらなかったのです。

 2001年の著作権等管理事業法施行で楽曲の著作権管理への新規参入が可能になった後も、JASRACは圧倒的なシェアを持ち続けています。


<今回の提訴>
 
   2009年2月、 公取委は、テレビ局などの放送局が事業収入の1.5%を払えば楽曲を自由に使えるという包括契約は新規参入を阻んでいるとして、独占禁止法違反(私的独占)でJASRACに排除措置命令を出しました。
  
 公取委は、放送局が他の管理事業者の楽曲を使うと、新たな費用負担が生じることになるため、新規業者の参入の妨げになっていると判断。楽曲の使用に応じ た仕組みにするよう求める排除措置命令を出しました。

 一方、JASRACは命令を不服として、審判請求しました。

 2012年、公正取引委員会は、「違反があったとする証拠はない」として、命令を取り消す審決を出しました(2012年6月12日付審決)。審判で公取委が覆すのは、1994年のエレベーター保守点検を巡る価格カルテル以来でした。

   審決は、新規事業者の管理する楽曲を回避したのは放送局1社だけで、JASRACの管理する楽曲と比べても、遜色なく放送局に使われていたと指摘。その上で「他の事業者の活動を排除する効果があるとは断定できない」と結論付けました。


 2012年7月10日、音楽著作権管理のイーライセンス(東京・渋谷)は、日本音楽著作権協会(JASRAC)が放送局と結ぶ楽曲利用料の包括契約について、公正取引委員会が出した審決の取り消しを求める訴訟を東京高裁に起こしました。

   訴状によると、イーライセンスは、公取委の審決には事実認定に明らかな誤りがあると主張。イーライセンスが管理する楽曲の利用自粛を促す放送局内の文書があるにもかかわらず「(放送局側は)利用を回避していない」とした解釈も誤りだなどとしています。

<高裁判決の分析>

  高裁判決は独禁法違反の有無について確定的な判断をしていませんが、JASRACのビジネスモデルに疑問を投げかけ、審理を事実上、公取委に差し戻しました。

 判決は、「経費削減の観点から、放送局側が追加負担の要らないJASRACの楽曲を選択するのは自然だ」と指摘しています。一部の放送局でイーライセンスの利用を控えるよう社内通知文書が出ていたことにも触れ、「包括契約は新規参入を著しく困難にした」と結論づけました。

 ただ、独禁法違反が実際にあったとまでは認定せず、「独禁法違反の要件に当たるかどうかを判断すべきだ」と公取委に審判のやり直しを求めるにとどめました。

 
13日、公正取引委員会と第三者として訴訟に参加したJASRACは独占禁止法に違反しないとする公取委の審決を取り消した東京高裁判決を不服として上告しました。引き続き最高裁で公取委の審決の是非が争われ、高裁判決がこのまま確定した場合でも公取委が改めて審判を行うことになるでしょう。問題が決着するまでにはなお一定の時間がかかりそうですね。