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2013年12月1日日曜日

知財の基礎 特許法

特許法の目的と保護要件

特許を受けることができる発明
 ○ コンピュータゲーム用のプログラム
 ○ 病院でのみ用いられる人間の癌の診断装置
 × 急カーブを安全に曲がるための自転車の運転方法


特許要件


産業上利用することができる発明
  • 特許を受けることができる発明は,産業上利用できる発明である必要がある。
  • 工業的に生産することができない物でも,産業上利用することができる発明には該当する。
  • ここでいう産業には,物を生産する製造業や建設業等といった工業だけでなく,飲食業や金融業等のいわゆるサービス業も含まれる。
  • 人間を手術する際に使用する手術用器具は,産業上利用することができる発明に該当する。

 新規性

 新規性を喪失した発明
  • 特許出願前に外国においてのみ公然知られた発明は,新規性を喪失した発明である。
  • 特許出願前に電気通信回線を通じて利用可能となった発明であっても,新規性を喪失した発明とならないことがある。
発明の新規性喪失の例外規定
  • 公知となった発明であっても,その発明が公知となった日から6カ月以内に特許出願した場合には,設定登録される場合がある。
  • 特許出願人がした特許出願に係る公開公報に掲載された発明について,新規性喪失の例外規定の適用を受けることができない。
  •  特許出願前に中国国内において,中国人が中国語によって中国人のみを対象とした公開セミナーにおいて発表した発明は,わが国における特許出願前にわが国国内において公知となっていない場合であっても,新規性がなく特許を受けることはできません。
<事例>
  • 甲は独自に創作した発明Aについて,平成24年10月10日午後3時に特許出願Pをした。 
  • 乙は独自に創作した発明Aと同じ発明について平成24年10月10日午前11時に学会で発表を行った。
    • 乙の行為により特許出願Pが拒絶される。特許出願Pの出願時点が,乙の行為よりも時間的に遅く,特許出願Pは新規性を喪失するため。
  • 丙は,独自に創作した発明Aと同じ発明について平成24年10月1日に中国において中国語で新聞紙面上に発表していた。
    • 丙の行為により特許出願Pが拒絶される。 丙の行為により特許出願Pは新規性を喪失するため。
  • 丁は独自に創作した発明Aと同じ発明について平成24年4月20日に特許出願Qを行い,早期審査を経て登録され,平成24年10月22日に特許掲載公報が発行された。
    • 丁の行為により特許出願Pが拒絶される。 特許出願Pに対して,特許出願Qは先願の地位を有するため
先願主義
  • 同じ発明について,異なった日に二以上の特許出願があった場合は,最初に特許出願をした者だけに特許権が認められる。
  • 全く同じ発明について異なった日に特許出願がされた場合には,特許庁長官から出願人に対して協議をするように命令が出され,協議の結果定められた出願人が特許を受けることができます。ただし,協議が成立しなかった場合は,特許は最初に出願をした者に認められることになります。

特許出願の手続

特許出願の必要書類

1. 願書  出願人・発明者に関する住所・氏名を記載する書面です。
2. 明細書  発明の内容を詳細に説明するための書面です。
3. 特許請求の範囲  特許を受けたい発明の内容を簡潔かつ明確に記載する書面です。 請求項に区分して記載します。 特許請求の範囲に記載された発明の内容が、権利の範囲を定めることになります。 もっとも重要な書面です。
4. 要約書  発明の概要を記載する書面です。

※ 図面は必ずしも願書に添付しなくてもよい。


特許発明の技術的範囲
  • 特許発明の技術的範囲は,願書に添付した 特許請求の範囲 の記載に基づいて定めなければならない。

特許出願の出願審査請求
 出願から3年以内に審査請求をしなければ、審査されません。 審査されなければ特許になることはありません。 審査請求は、出願直後(公開前でも可)に行うことも可能です。また、早期に審査結果を得たい場合は、「早期審査請求」を行うことで、2、3ヶ月で審査結果を得ることも可能です。 早期審査請求を行うか、通常通りの審査請求にするかは、戦略的にとらえて選択する必要があります。
  • 出願審査請求した後に,出願審査請求を取り下げることはできない。
  • 特許出願に係る公開公報により,特許出願の事実を知った第三者は,出願審査請求することができる。

<事例>
甲は,特許出願Aについて,請求項の数を3とする特許出願をすることとし,特許出願時にあわせて出願審査請求をすることとした。この場合,出願時に支払うべき費用は,145,000(円)になる。
参考
特許出願料 15,000円
出願審査請求料 1件につき118,000円に1請求項につき4,000円を加えた額

特許権の設定登録前における特許出願に関する手続
  • 拒絶査定不服審判の請求
  • 拒絶査定不服審判の請求と同時に行うことができる手続として,訂正の請求がある。

拒絶理由通知

<事例>
電機メーカーX社の開発エンジニアである甲がしたテレビに関する発明Aについて,X社が特許出願Pを行い出願審査請求したところ,審査官から拒絶理由が通知された。

  • 甲がとり得る措置として,最も適切と考えられるものは、審査官の見解に対する反論を記載した意見書や,その意見の内容を立証するための実験証明書を提出することである。
  • 意見書は必ず提出しなければならないというわけではない。
  • 補正により新規事項を追加することは一切禁止されている。

その後,さらに拒絶査定の謄本が送達されてきた。
  • 拒絶査定は,審査の最終処分であるが,それに対して不服がある場合は,特許庁に対して拒絶査定不服審判を請求し,一定の範囲内で補正することもできる。
拒絶査定不服審判
1.拒絶査定不服審判を請求するにあたって検討すべきこと
 (1)審判請求の要否の検討について   
 (2)補正の検討について
 (3)分割出願の検討について
2.審判請求した場合の手続き   
(1)審判請求時に明細書等を補正した場合
(2)審判請求時に明細書等を補正しない場合

審決取消訴訟

特許権の管理と活用
  • 特許権は,設定の登録により発生する。

特許権等に対するライセンス契約 
  • 特許権者は,専用実施権を設定したときには,特許発明を実施できない。
<事例>
医薬品メーカーX社は,自社の特許製品と類似する胃薬Aが同業他社Y社から販売されているとの情報を得た。そのため,X社はY社に対して,特許権を侵害している旨を知らせる警告書を送付した。警告書を送付する目的はどれか。
  • 侵害訴訟を提起する可能性を示唆する目的
  • ライセンス契約の交渉をする目的

特許権の侵害と救済

<事例>
 電機メーカーX社の知的財産部の部員甲は,開発者乙とともに新たに販売を開始しようとしている製品Aが特許侵害をしていないかを調査していた。その結果,今回の調査で新たに発見した電機メーカーY社の特許権Pを侵害している可能性が高いことを発見した。
  • 特許権Pの出願日において,すでにX社では製品Aの生産の準備をしていたことを客観的に証明できるのであれば,製品Aの販売を開始しても問題はなさそうです

特許権を侵害するとの警告を受けた場合
  • 特許権がすでに存続期間の満了により消滅している場合でも,特許権の消滅前の実施行為に対して損害賠償請求を受ける場合がある。
  • 特許に無効理由がなく,特許掲載公報に記載されている特許権者が警告者と同一であっても,この警告者の権利行使が認められない場合がある。
<事例>
ソフトウエア開発メーカーX社に対して,同業他社のY社から,X社がインターネットを通じて販売しているコンピュータプログラムAがY社の特許権Pを侵害しているとして,コンピュータプログラムAの販売の中止を求める警告書が届いた。
  • X社が販売しているコンピュータプログラムAは,X社が独自に技術開発し,Y社による特許出願より前に,実施の準備をしていたので,X社は先使用による通常実施権を有する旨を回答する。
<事例>
X社が,Y社が製品Aを製造販売する行為が,自社の特許権を侵害していると考えている場合の、X社がとり得る措置
  • X社はY社に対して,実施料相当額を超える損害賠償請求ができる。
  • X社が差止請求訴訟を提起する場合には,事前にY社に対しX社が警告書を送る必用はない。
  • X社はY社に対して,Y社が製品Aの製造販売により得た利益額を超える不当利得返還請求をすることはできない。



 <事例>

通信機器メーカーの技術者甲は,自らの発明について特許出願(請求項の数は3)したところ,出願内容について補正することなく特許査定の謄本が送達された。特許権を発生させるために納付する必要がある特許料は8700円になる。

特許料(特許法第107条第1項)
各年の区分 金額
第一年から第三年まで 毎年二千三百円に一請求項につき二百円を加えた額
第四年から第六年まで 毎年七千百円に一請求項につき五百円を加えた額
第七年から第九年まで 毎年二万千四百円に一請求項につき千七百円を加えた額
第十年から第二十五年まで 毎年六万千六百円に一請求項につき四千八百円を加えた額


特許法に規定する手続の期間
  • 国内優先権の主張を伴う特許出願は,先の出願日から1年6カ月経過後に出願公開される。

<事例>
バイオベンチャー企業のX社は,平成21年2月にバイオ技術に関連する発明について特許出願Aをし,その出願は平成22年8月に出願公開がされたところ,出願公開公報を見たY社からライセンスの申入があった。そこで,X社は特許出願Aについて,平成23年1月に出願審査請求を行い,平成24年11月に特許査定がなされ,平成25年1月に設定登録がされた。
→ 特許出願Aに係る特許権の存続期間の終期は,平成41年2月