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2014年5月12日月曜日

FCPA(アメリカ贈賄禁止法)の摘発が急増

 米司法当局が外国公務員に対する企業などの贈賄行為を禁止する海外腐敗行為防止法(FCPA)による摘発を強めています。最近10年で摘発件数は約10倍に急増しました。当局が積極的な法令解釈で摘発対象を広げているためです。

<FCPAとは>

 FCPAは米企業の外国の公務員に対する贈賄問題を機に1977年に施行されましたが、その後20年摘発事例は極めて少なかったようです。2000年代前半の法改正後、にわかに摘発が始まり、90年代後半に年間数件だった摘発が、2010年ごろには30件超に膨らみました。背景にあるのは、法律を管轄する司法省と米証券取引委員会(SEC)による積極的な法令解釈です。

 たとえば、FCPAの規制対象は原則として米企業ですが、外国企業も米企業と共謀したり、不正な支払いの一部を米国内で行ったりした場合には適用されます。当局は「米国内の行為」に「米銀を経由して資金をドル決済することも含まれる」と解釈し摘発しています。

 外国公務員への贈賄規制で米国ほど厳しい国は少ないです。そのため、米企業が競争上不利にならないよう、当局は米企業以外への適用に熱心です。

 米当局は外国公務員の定義も解釈を広げてきました。法令は「政府、その部局、機関、もしくは関連機関の職員・従業員」と規定していますが、当局は実務で「国営、実質的に支配する会社の従業員も含まれる」としているのです。

 アルカテル・ルーセントは10年、マレーシアの通信会社TMBの従業員に不適切な支払いをしたと摘発されました。この件ではマレーシア政府のTMBへの出資比率は43%にすぎませんでした。しかし、米当局は同国財務省がTMBの支出に拒否権を持つことなどから、TMBの従業員を公務員とみなしたのです。

 FCPAの適用範囲が裁判所で争われる事例が少ないことも、当局が積極的な摘発を続ける背景となっています。当局が解釈を広げても、摘発対象となった企業や個人の多くが「不訴追」や「訴追延期」を条件に和解金を払う司法取引に合意してしまうからです。

 FCPAや独禁法の執行は、民主党政権下では厳しくなる傾向があります。商習慣が異なるアジアや中東などで活動する日本企業は、特にFCPAを巡る議論に敏感になるべきです。

 米連邦控訴裁判所では現在、米通信会社幹部がハイチの国有電話会社の従業員に賄賂を贈った容疑を巡って裁判が行われています。国有会社の従業員が公務員にあたるかどうかが争われており、今後の判決次第では、増加する一方の米当局による摘発動向に影響を与える可能性もありそうです。

<日本企業も対象に>

 日本企業の摘発もあります。日本企業には、法令順守の徹底が求められています。

  丸紅は今年3月、インドネシアの公務員への贈賄容疑で米当局の摘発を受け、罰金約90億円で和解したと発表しました。昨年4月にはパナソニックの米国子会社が外国政府関係者への贈賄の疑いで当局の調査を受けていると米メディアが報じました。

 丸紅は火力発電所の設備を受注するため、インドネシアの国会議員や国有電力会社幹部に賄賂を贈ったとされます。問題とされた事業は日本の円借款で日本企業が手掛けるプロジェクトだったようですが、仏重電アルストムの米国法人と企業連合を組んだため、FCPAの摘発対 象とされました。