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2014年5月10日土曜日

認知症徘徊事故訴訟

  愛知県大府市で2007年、自宅を出て徘徊(はいかい)中に電車にはねられて死亡した認知症患者の男性(当時91)の家族に、JR東海が損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が24日、名古屋高裁であった。長門栄吉裁判長は男性の妻と長男に約720万円の賠償を命じた一審判決を変更、妻のみに約360万円の支払いを命じた。

 長男の賠償責任は認めなかった。


<高裁判決>

  判決によると、男性は07年12月7日、大府市のJR共和駅構内で電車にはねられ死亡。自宅で妻と長男の妻が介護していたが、男性は2人が目を離した間に外出した。JR東海は振り替え輸送費や人件費などを家族側に請求していた。

 長門裁判長は判決理由で、当時85歳だった妻に関して「1945年の婚姻以降、同居して生活してきた夫婦。自立した生活を送れない男性を監督する義務があった」と述べた。

 男性の認知症はかなり進行し、目を離すと外出する恐れがあったうえ、いったん外出すると追いかけることは困難だったと指摘。妻が家屋の出入りを知らせるセンサーの電源を切ったままにしていたことなどを挙げ、「男性に対する監督は十分でなかった点がある」として妻の監督に過失があったと判断した。

 長男については20年以上も別居生活を送っていたことなどを挙げ、監督者に該当しないとして賠償責任を認めなかった。

 「利用客への監視が十分で駅ホームの扉が施錠されていれば、事故を防止できたと推認される」などとしてJR東海側にも安全に配慮する責務があったと判断し、賠償額は一審から5割減額した。

<そして上告>

 JR東海は8日、男性の妻に約360万円の支払いを命じた二審・名古屋高裁判決を不服として上告した。

 同社の柘植康英社長は15日の会見で、最高裁に上告した理由について「遺族だけが上告した場合、最高裁での争点が、男性の妻に監督義務があるかどうかだけに限定され、長男に責任がないという前提で議論される可能性があるため」と述べた。高裁判決で指摘された安全対策については、柘植社長は「非常停止ボタンの整備など、これまでも多くの対策を取ってきている。ホームの安全対策はこれからも行っていく」と語った。

 男性の妻は9日、自身に約360万円の支払いを命じた二審・名古屋高裁判決を不服として上告した。 妻の代理人は「家族が十分介護してきた中で義務が尽くされていないとされ、承服できない」とのコメントを出している。

<社会への影響>

 認知症のため徘徊して事故に遭う場合が増えている。深刻な問題だ。認知症患者の急増が見込まれるなか、家族の責任を引き続き認めた司法判断は介護現場に影響を与えそうだ。家族が四六時中、見守るには限界がある。社会全体で対応すべき時だ。